姫と筋肉 誕生(9)
「やったな、レリーフ。これで一人前だ」
デルさんが僕の肩を叩く。
化け物みたいに大きな斧をやっと持ち上げて構える事が出来るようになった。筋トレによる筋肉増量と、リザードマンに止めをさし続けた賜物だ。私は不覚にもこの時感極まって涙してしまった。ここまで辛い事をして何かを成し遂げたのは初めてだ。しかも、あのデルさんが私をねぎらってくれている。
「今日はここまでだ。飯食って、水浴びして寝るぞ」
私たちはデルさんが出した食事をいただく。
「何から何まですみません」
「気にしなくていい。私たちもザップ兄様のお陰で今こうしてられる。恩返しにしても足りないくらいだ」
「ありがとうございます」
今、私たちがいるのは、デルさんが安全地帯だといった噴水がある部屋だ。
「見るなよ」
飯の後デルさんはそう言うと、シュルッと服を脱ぐと躊躇いなく噴水に入って行った。見るなよと言われても少しだけ後ろ姿を見てしまった。不可抗力だ。私がいるのにいきなり脱ぐとは思わなかった。だが、私はこの時感じた。デルさんから見て、私は全く異性として扱われていない事を。多分、近所の子供くらいの扱いなんだろう。実際、戦闘力ではそれ以上だ。まさに蟻と巨人。そうだよな、虫に裸を見られて恥じる女性なんかいない。私は少しでも早く、せめて人として見て貰えるようになりたいと思った。だから、デルさんが行水を終えた時に、
「あの、水浴びの前にあと少しトレーニングしてもよろしいでしょうか?」
デルさんは何も言わず、私にタオルと毛布と回復薬3つと小皿に山盛りのゆで卵を差し出した。
「ありがとうございます」
私は床に頭をこすりつけると、デルさんが毛布に包まって寝るのを見ながらトレーニングを開始した。全身の筋肉を鍛えるだけ鍛えて、回復薬で癒すを繰り返す。デルさんからもらった薬以外にも、リザードマンがドロップしたものも貰っていたので、全ての薬を飲み尽くすまで鍛え続けた。理想的な肉体を思い浮かべて。精魂尽きて最後の薬で体を癒し、腹は減ってないのに茹で卵を口に捻じ込んだ。
「レリーフ、大っきくなったな……」
起きた私を見てデルさんが呟く。多分今は朝だが、決して変な所が大っきくなっていた訳じゃない。私の体が一回り大きくなっていた。後にも先にもこんなにすぐに筋肉がついたのは初めてだ。多分急激なレベルアップが関係していたのかもしれない。私は感動にうち震えた。鍛えたら鍛えただけ筋肉は応えてくれる。努力が力になる。筋肉は最高だ!
「では、今日からは実戦だ」
私は借りた斧をもって部屋を出たデルさんに続く。昨日は持ち上げるのがやっとだったが、まるでワンドを持ってるかのように軽々と持ち上がった。
そして、それから私は魔物を狩りまくった。今までの訓練は茶番にしか過ぎなかった事を思い込知らされた。何度も何度も死にかけながら、私は戦い続けた。私は強さに力に焦がれた。戦いの合間、デルさんが休んでる時でも、私は飽くことなく筋トレを続けた。そして、筋肉は応えてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まあ、と言う訳だ。ラパン、そんなに面白い話ではなかっただろう。筋トレ以外は」
レリーフの凄絶な話に僕たちは聞き入っていた。ここのメンバーはパワーレベリング済みなので、みんな心にグッときたと思う。特にピオンとパイの忍者娘2人は若干涙目だ。彼女達の修行は特に激しかったからだろう。けど、スパルタすぎるし、ストイック過ぎるだろ。え、じゃ、という事は……
「僕もデルさんに鍛えて貰ったんだよ。と言う事は、僕はレリーフの兄弟子に当たる訳だよな。敬えよ」
「そうか、お前は私の兄なのか。兄さんと呼べばいいのか?」
む、レリーフに兄さんって呼ばれるのはめっちゃ嫌だ。BLの兄貴みたいだ。
「それは止めてくれ。ラパンさんでいいよ」
「断る。私は自分より強い者しか敬わない。ここで白黒つけるか?」
「良いだろう。かかってこい!」
「ラパン、止めて止めて。そう言えば、勝負はどうなったの」
シャリーちゃんが僕を後ろから抱き締めて止める。む、でかい胸しやがって。
「ん、勝負? ああ誰が1番強くなったのかだな。あの時はジニーだよ。パーティー全員でミノタウロス王と戦わせられて、とどめを刺した者が勝者という事になっていいとこ持って行かれた」
レリーフがここまで饒舌なのは珍しい。なんだかんだで、いい思い出になってるのかもしれない。
けど、いい事を聞いた。レリーフ、耳が長い生き物が苦手なんだな。僕は店のトイレで着替えて来る。
「レリーフ、似合ってるだろ」
「ひ、ひいっ。耳、耳っ……」
バニーガール姿の僕を見ると、レリーフは一目散に逃げて行った。弱点ゲットだぜ。けど、レリーフが逃げたお陰で、奴の食事代金は僕が払う事になった……
姫と筋肉 誕生 完
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