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 姫と筋肉 誕生(8)


「やっと人並みになったわね。多分、私たちが1番出遅れている。こんな所で雑魚狩りしていても追いつけないから、一気に行くわよ」


 気が遠くなるくらいの時間、けど実際は半日も経っていないとは思うが、筋トレのあと休憩を少し取った。デルさんは私に近づいたと思うと、私はひょいと抱えられる。これは俗に言うお姫様だっこ。そう思う間もなく私の回りの景色が高速で流れだす。


「な、何してるんですか?」


 いつの間にか私は敬語で話していた。


「狩り場に行く」


 通路を通り部屋をくぐり、階段を下りる。それを延々と繰り返す。密着した体から感じるデルさんの温もり。それを堪能する余裕はなかった。速すぎるだろ。曲がる度にかかる重力、階段を飛び降りる時の浮遊感。私は何も出来ず震えていた。今までかつてこれほど恐ろしい体験をした事は無かった。転落は即死。恥ずかしながら私は震えながらデルさんに摑まっていた。どんな暴れ馬に乗ったとしてもこんな激しくは無いだろう。もっとも私は乗馬などした事は無いが……

 どれくらい長い間それが続いたのかは解らない。いつの間にか私は意識を手放していた。



「起きろレリーフ」


「は、はいっ」


 頬を叩かれて私は即座に跳ね起きる。


 私たちが今いるのは迷宮の通路の突き当たりみたいだ。突き当たりには扉がある。デルさんは扉を開けると、私の手を引っ張って部屋に放り込む。


「戦ってこい」


 デルさんの声を背に、たたらを踏んで中に入ると中にには巨大な人影。ずんぐりむっくりの汚いオッサンを大きくしたような魔物。聞いた事がある。トロールだろう。その手には刺のついた大きな金棒を持っている。トロールは一直線に私に向かって駆けてくる。無理だ。私は身が竦んで動けない。振り上げられる金棒。横にかわすが、肩が熱くなる。私はこの時初めて知った。激しい痛みは熱いと感じるのを。私はその場に崩れ落ち目の前が真っ白に染まっていった。




「起きろレリーフ」


 私はペシペシと頬をはたかれる。


「はっ、はいっ!」


 私は急いで立ち上がる。あれ、私は確かトロールに……

 けど、殴られたはずの左肩は全く痛くない。触ってみると、ローブに固まった血が。夢じゃなかったんだ。


 辺りを見渡すと、私の隣にはなにかが転がっている。リザードマン、リザードマン3匹が転がっている。死んでいるかと思ったが微かに動いている。まじか! リザードマンなんて初めて見た。王国の南西にリザードマンの集落があるそうだが、奴らを倒せるのはほんの一握りの一流の冒険者のみ。おどろく私に目もくれず、デルさんは口を開く。


「腰を落として、このように構えろ。棒を握ってるようにだ。目に見えない斧を持ってると思え。もっと前、もっと右。そうだ。重いと思うが何があっても手を離すな」


 私は訳が解らず言われた通りにする。まるで、見えない斧をリザードマンの首筋に当てたような構えだ。デルさんが近づいて手を伸ばす。


「ウオオオッオーッ!」


 口から変な声が出る。私の手に巨大な斧が!


 ぶしゅっ!


 斧は到底支えられるものでは無く、それは重力のままに落ちて行くが、手は離さなかった。斧は容易くリザードマンの首を落とし、地面にめり込む。


「やったな、レリーフ。手を離していいぞ」


 手を離すのと、私に力が流れ込むのは同時だった。聞いた事がある。魔物に止めを刺すと、その力が流れ込んできてレベルアップすると。


 デルさんは片手で斧を抜くと、どっからか出した布でそれを拭うと斧は消え失せた。私は初めて人のような生き物を殺したと言う実感で全身が震える。


「次いくぞ」


 感情の無いデルさんの声。


「む、む、む、無理ですよ」


 私は辛うじて言葉を絞りだす。


「そうか、それなら私はお前を置いて行く。次は間違いなく死ぬぞ」


 今なら解る。デルさんは私に死ぬような体験をさせる事で、生きるためには他者を殺める必要がある時に躊躇わない心構えを付けるためにトロールと戦わせたのだと。


 デルさんは私に背を向ける。私はトロールにさっき殴られた事を思い出す。もう、死ぬような目に合うのだけは嫌だ。全身に力を入れてなんとか震えを止め言葉を絞り出す。


「待って下さい。置いて行かないで下さい。やります。何度でもやります……」


「よし、じゃあ準備しろ」


 デルさんは口の端に笑みを浮かべ振り返る。端正なデルさんの顔がこの時だけは恐ろしかった。


 そして、またデルさんの指示の下、残りのリザードマンの首も落とした。


 それから私たちは、デルさんが当て身でリザードマンを気絶させる。私が首を落とすを繰り返した。

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