番外編SS2中編 荷物持ち討伐依頼を受ける
僕は着ぶくれのおかげで、よろよろしながら洞窟の入り口に近づく。
見張りはいないようだ。
入り口から少し先は闇。全く先が見えない。いままでゴブリンと戦った草原や迷宮はだいたい明るかったが、洞窟は光源がない。ゴブリンは闇を見通せるが、僕たちには出来ない。これは結構厄介なのでは。松明は持ってきてるけど、こちらの居場所を知らせてるようなものだ。他の冒険者はどうやってるのだろうか?
「マイ、なんかゴブリンに気付かれずに闇を見通すいい方法はないか?」
「……ないわ、思い浮かばない」
「しょうがないな、松明もって突撃する。マイは適度に離れて援護してくれ」
「わかった、気を付けてね」
マイは腰に下げてる剣を抜く。アレフの持ってた勇者のつるぎだ。マイは勇者じゃないので使いこなせないが、壊れなくて格好いいから使っている。何も切れないなまくらだけど。
松明を出して、ヘルハウンドブレスで火をつける。正直無駄使いだ。右手で松明をかざして左手にミノタウロスのハンマーを持ち中に入る。
中は緩やかな坂になってる。これなら雪が降り込まない。少し暖かくなった気がする。服を少し脱いで収納にしまって歩き始める。耳を澄まして歩く。大人が三人くらい並んで歩ける広さで、高さは結構ある。少し歩くと開けた所に出た。
「グギャッ!」
奥にゴブリンが二匹見える。見張りか。
僕は一直線に走る。
「グワッ!」
ズザザザザーッ!
僕は何かに足を取られ頭から盛大に地面を滑る。ゴブリンたちが近づき僕に槍を向ける。転倒した際にハンマーと松明を落としてしまったので、起き上がりながらゴブリン二匹を素手で殴り付ける。一匹は頭が砕け、もう一匹は壁にぶち当たり絶命する。
「ザップー、大丈夫?」
マイが壁伝いに近づいてくる。僕は立ち上がり松明とハンマーを回収する。部屋の中央を確認すると、小さな穴の中に横に棒を埋め込んだ足を引っ掛ける罠が無数にある。もし僕が駆け出しの冒険者だったらゴブリンに槍で刺し殺されてただろう。危ない危ない。
「大丈夫だ、けど、ゴブリンって頭いいんだな」
「そうね、えげつない罠ね、気を付けないとね」
「ああ、そうだな」
『ゴールデン・ウィンド』の聖女マリアの事を思い出す。彼女は何故か何かと罠とか毒に詳しかった。ほとんどの罠は彼女が見つけていた。なんで戦闘能力が余りないのに大きな顔してたか解らなかったけど、罠を解除できるというのは冒険者にとっては重要だということを実感した。
部屋から先に細い道が続く。入ったとたんにジャラジャラと大きな音が洞窟にこだまする。鳴子だ、よく見ると足下に紐が有り、それに触れたら天井付近にある金属片がぶつかって大きな音が鳴るようになっている。
やられた、これで僕らの侵入が洞窟の中の全てのものにばれただろう。いかん、罠にかかりすぎだ。
気を取り直し、真っ直ぐ進んで途中で右にほぼ垂直に折れ曲がった。左手の壁の色になんか不自然さを感じるが、まあ、気のせいだろう。
ヒュン!
少し開けた所に出て、そのとたんに風を切る音が聞こえる。顔をハンマーでガードする。
カッカッカッ!
ハンマーに矢が当たり弾かれる。前を見るとここは楕円形の小部屋で、奥に急な坂があり、その上からゴブリンが三匹弓を構えている。生意気な!
僕は一直線に駆け出す。坂を上り一瞬でゴブリンたちをハンマーで殴り殺す。鎧袖一触だな。
「キャアアアッ!」
マイの悲鳴がする。僕は心乱され来た道を駆け戻る。