姫と筋肉 誕生(6)
「しばらく会えなくなるから、仲間と話す時間をあげるっす」
アンジュさんの言葉で、少女達は我々から少し離れた。逃げようかと少し思ったが、それは無駄だと思い留まる。
「なんか、なんでこんな事になってるんだ?」
デュパンが口を開く。
「どうも、ザパンさんが、彼女たちに私たちの訓練を依頼したみたいだ」
私が答えると皆複雑な顔をしている。
「まあ、オイラはボインボインちゃんに鍛えて貰えるっぽいから最高だね」
パムがおどける。このあと奴は巨乳恐怖症になるのをまだ彼は知らない。
「俺を鍛えてくれるって言うミカさんも大したもんだぞ」
デュパンは両手でシタから胸を持ち上げる仕種をする。彼は女性神官恐怖症にこの後なる事を知らない。
「お前だって、悪い気はしないだろ」
デュパンが私の肩を叩く。まあ、デュパンが言うとおり、少し期待感してた。私はこれ以来耳が長い生き物、例えば兎などを見る度に身が竦むようになってしまった。
「もう、男っていつもそればっかなんだから。こーんな可愛い女の子がそばにいるのに失礼よね。私の相手はアンジュさん。可愛くて恰好いいわよね」
逆にジニーはこのあと百合まっしぐらになる事をこの時はまだ知らない。これ以降
、彼女が興味を持つ人物はザパンさんとアンジュさん、要はボーイッシュな女性のみという不毛な荒野を突っ走る事になる。コイツも顔がいいのに残念な事だ。
「じゃ、頑張るとするか。まあ、鍛えてくれるのは全員女性だし、そんなに大変じゃないだろ。それよりもジニー以外は羽目外すんじゃねーぞ」
「デュパン、お前が1番気を付けないとだろ。オイラは紳士だからな」
そう言うパムは目がギラギラだ。セクハラする気まんまんだな。
「そうよ、あなた達、絶対、絶対に変な事しないのよ」
そう言うジニーはこのあと、アンジュさんに夜這い掛けまくったらしい。
「よし、行くか」
デュパンに促されて、我々は少女達の方に向かう。ピクニックにでも行くような軽い気持ちで。
この時振り返ってみると、我々の職業と訓練者がちぐはぐだ。魔法使いの私に力士のデルさん。戦士のデュパンに神官戦士のミカさん。吟遊詩人の皮をかぶった盗賊のパムに魔法使いのルルさん。あと神官のジニーに戦士のアンジュさん。我々の特性を完全に無視している。
「話はおわったみたいっすね。それでは開始っす。そうですね、エリ部屋より奥は無しって事で。あとは自由。ミノキンを誰が1番に倒せるかがキーっすね」
赤毛のアンジュさんの言葉で、我々の迷宮訓練が開始された。迷宮に入り我々はすぐに別れた。前を歩くデルさんに疑問を投げかける。
「エリ部屋って何なんだ?」
「回復の泉がある部屋よ」
デルさんは振り返らず答える。
「ほう、そんな凄いものがあるのか。あとミノキンってなんだ?」
「ミノタウロスの王」
声が無愛想になってる。子供みたいに色々聞いてるから面倒くさがられてるのかも知れない。けど、知らない事をそのままにしたくない。冒険には命がかかっているから情報は命と直結する。
「ミノタウロスの王? そんなの聞いた事もない。しかもそれを倒すってそんな奴王都にいるはずが無い」
そうだ、多分彼女たちの隠語なんだろう。多分彼女たちはゴブリン辺りをミノタウロスって呼んでるのかも知れない。まあ、何でミノタウロスなのか解らないが。
「それで、そのミノキンを最初に倒したら何か良いことあるのか?」
「たまにスキルポーションが出るのよ。最初に倒して飲んだ人が有利」
スキルポーション? もう意味が解らない。確かに聞いた話だとこの迷宮ではポーションが良くドロップすると言う。だが、スキルポーションなんかがドロップしたと言う話は聞いた事も無い。もう、考えるのは止めよう。デルさんが嘘ついてる訳は無いし、これから見る事で判断しよう。
「やはり、ここらには敵はいないな。走るぞ」
私は走り始めたデルさんを追っかけた。さすがにここは迷宮。ソロは心もとなさすぎる。