巨大バッタ(前編)
「今回は、あたしは見とくだけでいい?」
マイが後ろから話しかけてくる。
「ああ、別に構わないよ」
「何て言うか、やっぱり虫系は無理。しょうがなく戦うのはまあいいけど、好んで近づきたくはないわ」
まあ、そうだな。虫サイコー、虫だーいすき。とか言ってる女子がいたら、正直ドン引きだ。
「え、何言ってるんですか。虫サイコーじゃないですか。なんかエビみたいですし、食感は沢ガニ丸かじりとあんまり変わらないじゃないですか。私はイナゴの佃煮だーいすきですよ」
相変わらずブレないな。ネタでもそれは止めて欲しい。見た目は可憐な少女であるアンが虫をボリボリしているのを想像してしまう。軽くホラーだ。いや、コイツはドラゴンだ。ドラゴン姿で虫ボリボリは別にそこまで違和感は無い。コイツは女子じゃない。雌ドラゴンだという事で自分自身を納得させる。コイツにとっては虫でさえ食料なのか。僕は昔とっても貧しい時に口にせざるを得なかった時もあるが、けっして美味いとは思わなかった。
「そうなの? 虫って美味しいの? ノノのいた結界の中は虫すら居なかったから食べた事ないかしら。アン、今度一緒に狩って食べるかしら」
眉目秀麗美少女ハイエルフ様が何かおっしゃられている。そのご尊顔で妙な事言うのは止めてほしい。最近はほぼ毎日誰かしらがノノとお知り合いになりたいとか言って家に来る。マイやアンも可愛いけど、何て言うか普段のノノは表情が無防備なのだ。おっとりしてそうで、近寄り安そうなオーラを出している。実際は中身はどうしようもないんだけど。
「頼むからそれは止めてくれ。虫が美味いのならみんな虫を食ってるよ。虫よりもっと美味しいもの食わせてやるからそれで我慢しろ。な、マイ」
「うん、気持ち悪くなるから、虫食べる話はこれでおしまい。さっさと依頼を終わらせて、今日はマリアさんとこで美味しいものでも食べましょう。成功報酬いい事だし」
「「はーい」」
アンとノノは素直に返事する。その目はとってもキラキラしている。今日のご飯を楽しみにしているのだろう。ちなみにマリアさんの所とは家の隣のレストラン兼バーの『みみずくの横ばい亭』だ。ご飯もお酒も美味しいので、僕も楽しみだ。
今回の依頼は街の北の山奥にある巨大樹の森で巨大バッタを捕獲する事だ。その森には様々な巨大昆虫が生息している。バッタは全身が無事だったら生死は問わないけど、死んでるなら死後一日以内に納品して欲しいとの事だ。依頼主は王都の貴族で報酬はべらぼうに高いけど、その達成難易度の高さからX依頼になっていた。X依頼とは、長期間誰も引き受けてない塩漬け状態の依頼の事だ。巨大バッタの討伐ならそこまで難易度は高いとは思わないが、死後一日以内の納品は物理的に無理だ。王都から巨大樹の森に行くのだけで普通は一日以上かかる。生きたまま納品すると考えると、巨大バッタを魔法や薬で動けなくするしかないと思うが、それを抱えて王都まで戻る事を考えると、それをなし得るパーティーは少ないと思われる。まあ、要は経時劣化しない魔法の収納持ちが居ないとなし得ない依頼だという事だ。
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