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 剣聖


「これが最後だ!」


 僕はハンマーを右側面に引き絞る。もう残された手段はこれくらいしか思い浮かばない。得意の振り下ろしは攻撃点が狭い故に、どんなに威力があっても剣聖には届かない。横薙ぎならば、かわすか受けるかしない限り対処出来ないはずだ。


「ザップ、信じてるわ」


「ご主人様、見てますよその心意気」


 マイとアンの声が僕に勇気を与えてくれる。僕は負けない。彼女たちの英雄であり続けるために。

 剣聖は得物を正眼に構える。どのような攻撃にも対処できると思ってるからだろう。後の先というやつか。くそ食らえだ。


 僕の名前はザップ・グッドフェロー。


 ザップという言葉には素早く打つとか強烈に打つって意味もあるらしい。死んだ父さんがどういう心意気で僕にその名前をつけたのか解らないけど、僕は自分の名前が好きだ。そうだ僕の戦略はただ攻撃有るのみ。圧倒的な力でねじ伏せるだけだ。力が勝つか、技が勝つか。


「うおおおおおおおおーっ!」


 雄叫びを力に変えて僕は走り寄りハンマーに力を込める。力、速度ともに最大限。これを防がれたらもう僕には剣聖を倒す手段が無い。けど、これは戦いだ。試合なんかじゃない。敗北は即、死に繋がる。僕は自分の全てを賭けて奴を倒す!



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「頼む、お前しか、もう頼める人が居ないんだ」


 僕に頭を下げているのは、王国の冒険者ギルドのギルドマスターだ。とある魔道士が犯した禁忌。遺体を集めて作ったフレッシュゴーレムに、なんと百年前に大陸一との名を馳せた剣聖の魂を込める事に成功したそうだ。そのフレッシュゴーレムには意思は無く、ただ人を殺めるだけの制御出来ない殺人兵器として郊外の廃城にいるそうだ。今は城に留まっているが、もし外に出たら何人もの人々が犠牲になる恐れがある。

 僕はその依頼を受けて廃城に向かいゴーレムと戦う事にした。

 ゴーレムは城の玉座の前に傅き動かない。フレッシュゴーレムと言うが、全身をフルプレートメイルで覆っているので、ただの騎士にしか見えない。マイとアンを下がらせて僕は武器を手に戦いを挑んだ。ハンマーで攻撃しても、攻撃しても、かわされたり流されたりして、今まで一撃も加える事はできなかった。しかも返す剣で少しづつ傷が増えていく。どんなに全力で全速でハンマーを振るっても擦る事さえかなわない。まるで幻か何か、相手が存在していないかのようだけど、増えていく傷が剣聖の存在を照明している。なにか、手は無いのか?


「ぐぼぉ……」


 鳩尾を激しく蹴られ吹っ飛ばされる。考えても、僕には難しい事は解らない。剣聖はゆっくりと歩いて来る。逃げられない。けど、この間合いは好機だ。全てを賭けた一撃に賭ける。僕は立ち上がる。


「これが最後だ!」


 僕はハンマーを引いて構える。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「うおおおおおおおおーっ!」


 僕は踏み込む。足、腰、肩、腕、全ての筋肉が繋がる。いいぞ、これなら、この間合いでは絶対にかわせない。剣聖の剣が沈んだと思うや否や、加速しやがった。そして僕の懐に入り込みながら剣を打ち上げる。


 ザシュッ!


 まじか、両腕に焼け付くような痛み。宙を舞う2つの影。そうか、ぼくに密着する事でハンマーの間合いから逃れたのか。凄い胆力と技術だ。けど、僕の勝ちだ……


 ドゴン!!


 ハンマーが剣聖の頭に当たる。剣聖は首を変な方向に曲げて錐揉みしながら、ハンマーと共に吹っ飛んでいく。そして廃城の壁にぶつかり壁にのめり込む。両腕があった所からおびただしい血を流しながら僕は剣聖を見つめる。動かない。ギリギリだけど勝てた。


「マイ、アン、腕を頼む」


「は、はいっ。ご主人様」


「ざ、ザップ。大丈夫!」


 マイとアンに腕をくっつけて貰ってエリクサーで癒す。危なかった。


「何がどうなったの?」


 マイが尋ねる。


「腕を切られた瞬間にハンマーを収納に入れて、剣聖の頭の横に出しただけだ。骨を斬らせて皮を断つだな。いくら剣聖でも攻撃してる瞬間は無防備だ」


「それ言うなら、骨を斬らせて肉を断つでしょ」


 マイがツッコむ。けど、皮なんだ。


「いや、皮でいいんだ。俺の攻撃なら、皮を断つくらいでも、普通の奴だったらあんなになっちまう」


 僕は壁にめり込んだ剣聖を指差す。


「結果的には勝ったけど、勝負なら完敗だだったな。収納スキルが無かったら俺は死んでた」


「けど、それを含めてご主人様の強さでしょ」


 まあ、そうだけど、少し釈然とはしない。僕は剣聖の方に歩いていく。


「た、タノしい戦いだった。デキる事なら、マタ戦いタイナ」


 剣聖は壁から体をひきはがし、剣を構える。けど、その体からは全く殺気を感じない。


「そうだな。ありがとう」


 僕は剣聖とすれ違い城を後にした。剣聖の剣術、天稟(てんぴん)と修練の境地の技は僕の目に焼き付いている。それは僕の中で生き続けていく事だろう。



 読んでいただきありがとうございます。


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