幸運のネックレス(中編)
「それは多分マルチ商法ってやつね。魔道都市では禁止されてるけど、その他の国ではねずみ講は禁止でもマルチ商法は違法じゃない事が多いわよね」
アンジュの説明を聞いた導師ジブルはテーブルに頬杖をついて吐き出すように言う。ウンザリ感が半端ない。
ねずみ講は聞いた事がある。絶対に儲かるって言われてハマる冒険者を何度か見た事がある。確か、会員を増やすと自分にお金が入ってくるような感じだったと思う。僕は絶対に楽して儲かる事なんかあるはずがないと思って関わらなかった。それに関わってる人達はみんな異様なギラギラした目つきになってたのを思いだす。けど、数年後にはその人達はいなくなってたな。
「ねずみ講とマルチ商法って何が違うんだ?」
それって同じものじゃないのか?
「ねずみ講は会費とかで物品が介在しないけど、マルチ商法は今度のネックレスみたいに何か物品を売ってその何割かを貰えるようなシステムよ」
それってやってる事は同じなんじゃないか? けど、所詮商売だよな。
「まあ、別に死んだりする訳じゃないし、ほっといてもいいんじゃないのか?」
僕の言葉にジブルは額に手を当てる。
「まあ、そうしたい所だけど、ねずみ講は最終的に破綻して借金だけが残るものだし、そのミカが絡んでいるのも悪質な奴だったら上の人間がお金を集めるだけ集めて遠くに逃げてしまうかもしれないわ。そして、借金だけが残って、ミカは王都の歓楽街で働く事に……」
「そんなミカを見かけたら、ザップさん間違いなく助けるっすね。あ、ミカをミカける。語呂がいいっすね」
アンジュは能天気に笑う。僕たちに相談した事で肩の荷が降りたのだろう。
「だいたい、その手のは、やってる事は詐欺なのに、耳当たりのいいストーリーを前面に押し出してる事が多いのよね。それだって、孤児を集めてネックレスを作らせて、その収入に充ててる所とかが嫌らしいわ。だから、騙されてる人達は自分たちは人のためになる素晴らしい事をして、それで生活しているって洗脳されてるから、なかなか抜け出せなくなる訳よ」
「それで、どうすればいいの? あたしの親しい人が騙されてるのは嫌だし、それになんか複雑よね」
マイはそう言うとコーヒーを口にする。
「なんだ、簡単じゃないのか? そのネックレスを作ってる所を襲撃してミカに関わらないように言えばいいだけじゃないか?」
「ザップさん、それは私も考えたっすよ。けど、それじゃ根本的な解決にはならんすよ。ミカに恨まれるだけっす」
やっぱアンジュも脳筋。考える事は一緒か。
「若い時ってそんなのにハマる時期があるのよね。はしかみたいなものよ。ここは魔道都市が誇る頭脳の私が説得するしかないわよね」
若い時って、ジブルは見た目は幼女なのに。
「もしかして、お前アラサーと思ってたけど、アラフォーいってるのか?」
「ザップ、女性に年齢を聞くのは失礼よ。私はずっと16才よ!」
ジブルのこめかみの青筋からこれは図星だったのでは?