幸運のネックレス(前編)
「ザップさん、マイ姉様。私では手に負えないっす。恥ずかしながら、力を貸してもらえんすか?」
赤毛の少女が僕たちに頭を下げる。アンジュ、僕たちが懇意にしている少女冒険者4人のリーダー格だ。
僕とマイは今リビングでコーヒーを飲んでいる。マイのスマホ(収納スキルの拡張端子)にアンジュから連絡があって、話たい事があるとの事で今に至る。
「アンジュが困ってるなんて珍しいわね。それで、どうしたの」
「それがですねー……」
アンジュが言う事を要約するとこういう事だ。
アンジュ達のメンバーの1人、神官戦士のミカがおかしな事にはまっているらしい。ミカ、そう言えばそういう女の子いたな。アンジュ達メンバーの強烈な個性に埋もれて、下手したら僕が名前を忘れてしまう娘だ。小柄でポニーテールの女の子だったと思う。
それで、おかしな事とは、『幸運のネックレス』というものを熱心に売り始めたそうだ。パーティーメンバーのみならず、知り合いを経て、今は往来の人々を捕まえてネックレスを売ろうと奔走しているそうだ。
「ん、なんだ、それって儲かるのか?」
「いえ、どうなんでしょう。けど、ミカはそれが世のため人のためになると思って頑張ってるっす。私たちが言う事には全く耳を傾けないっす」
「なんか、布教活動みたいね」
マイの猫耳がしんなりしている。やれやれって思ってるのだろう。
「そうなんすよ、前の戦いでミカって光の神様に疑問をもったみたいで、ずっと悩んでたんすよ。それがいきなり元気になったかと思ったらこんなんすからね。しかも、パーティー抜けようとかも言い出す始末なんすよ」
「その幸運のネックレスの現物は無いのか?」
「これっす」
アンジュが出したのはキラキラした石を紐で結わえてペンダントトップにした、紐を首にかけるプリミティブなネックレスだ。
「それ、幾らなのか?」
「小金貨1枚っす」
えっ、これが小金貨1枚? 僕なら銅貨1枚でも買わないし、それくらいの価値しかなさそうだ。ちなみに、小金貨1枚稼ぐのには結構条件がいい肉体労働とかを1日していけるかどうかだ。高すぎだろう。
「待って、みてみるわね」
マイ先生の鑑定炸裂だ。
「そうね、一応祝福されてるみたいね。効果は幸運+0,1。気休め程度ね。流通価格は銀貨1枚って所かしら」
「おいおい、それって詐欺じゃないのか?」
「そうですよね。けど、ミカ言うにはこのネックレスは身寄りの無い子供達が作ったもので、そのあと光主様と言う人の素晴らしい祈りが込められているそうっす。売り上げ孤児院の経営や困った人を助けるために使われてるそうで、それを考えると小金貨1枚は安いものだそうで、にも関わらず、それ以上の金額で売る事は禁止されてるそうっす」
「むぅ、何とも言えんな」
詐欺っぽくはあるけど、なんか良いこともしてるみたいだな。
「ミカは人助けしながら、稼げるって目の色が変わってるっす」
「なんか、なんとも言えないわね。アンジュ、少し待ってて、ジブルにも話聞いてみるわ」
マイはそう言うとスマホを手にする。金銭関係のトラブルなら、まずは守銭奴導師ジブルにおまかせだな。
ちなみに通貨設定ですが、ほぼ、小金貨=1万円、銀貨=千円、銅貨=百円と思って下さい。
読んでいただきありがとうございます。