りんご飴
「ザップー、見てみて、あれってりんご飴じゃないの。わっ、きれー。凄いわねー」
屋台には色とりどりのりんご飴が並んでいる。それは陽光を照り返して輝いていて、まるでその一帯は宝物庫みたいだ。
「どれにするか?」
「え、いいの。あたしはあの赤いやつ」
「じゃ、俺は青いのだな」
僕は店員さんにお金を払う。2つで銀貨1枚と銅貨4枚だ。結構するな。安い食堂で飯3食は食べられるぞ。けど、そのキラキラしたりんご飴をキラキラした目で見ているマイを見ると、安い買い物だった気もする。
「みんなの分、どうしよう」
「そうだな。あとオススメ3つ頼む」
店員さんは僕達と違う柄のりんご飴を3つくれる。そして払った金額は銀貨2枚。中々商売上手だな。高くなってるし。上から3つの高額なやつを選んでくれたんだな。あいつらにはもったいないな。
「うわ、コレ、美味しい!」
マイの小さな口の跡がりんご飴についている。僕もガブリといってみる。うん、これは美味い。スカッとした味、多分柑橘系の飴の中にりんごがいて、しかもりんごも飴に負けないくらい甘い。子供の時に食べたやつは、外は激甘で中は味がしなかったような。それでも子供だった僕には最高のものだった。りんごを飴が覆っているというだけで、驚愕なものだった。
美味しそうにりんご飴を食べているマイと妹の姿が重なる。そういえば、妹も美味そうに食べてたな。僕は昔の事を思い出した。
あれは確か帝都に流れて行った時。僕と妹は住む所も無く廃棄された寺院の跡で雨露を凌いでいた。妹は体が弱かったので日がな1日そこで細々とした事をしてもらって、僕は毎日薬草採取に勤しんでいた。生活するだけでやっとだったけど、それでも僕は妹のために毎日飴玉を買いながらも少しづつお金を溜めていった。そしてある日出会ってしまった。りんご飴に。
その時は何らかのお祭りだったと思う。仕事帰りに見た、屋台に並ぶ赤と青の棒に刺さったキラキラした丸い玉。大っきいのと小っさいのがあった。
それは何かと的屋のおっさんに聞くと、りんご飴、りんごの回りを飴で覆ったものだと言う。祭りだと言うのに、家でずっと家事や内職をしている妹。僕は妹に何としてもそれを買ってやりたかった。値段を聞くと、その時の僕の半日分の稼ぎくらいだった。貯めてるお金が頭をよぎるが、それはだめだ。妹を学校に行かせるためのものだ。
「おっちゃん、明日もやってるか?」
「ああ」
僕のやる事は決まった。家に帰り飯を食って、どうしても急いで買いたいものがあるからと妹に言って、それから帝都を抜け出して次の日の夕暮れまで寝る事なく採取に励んだ。そして2日分の稼ぎを手にりんご飴を手に入れた。
「え、何これ……」
「祭りだろ。りんご飴だ」
そして、妹は泣きながらりんご飴を食べた。けど、途中からその顔には笑顔が戻った。
「はい、にいちゃも食べて」
僕はそれを一口だけいただいた。ベタベタに甘かったけど、僕には何よりも美味しいものに感じられた。
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