チャレンジャー
「せいっ! せいっ!」
僕はハンマーを振るう。最近体が少したるんできたから、いつもより力を入れる。思いっきり振り下ろしたハンマーを途中で力づくで止めるだけで、かなりの運動になる。腕だけでなく、胸、腹、背中の筋肉も使う事で威力が増し、かつ僕の体を絞ってくれるはずだ。
僕の後ろにはマイ、あと今日は珍しく少女冒険者4人みんな来てる。その後ろにはメイド軍団。ラパン、シャリー、ピオン、パイ、ケイだ。彼女達がメイド服を着てるのは店のアピールだそうだ。今日は屋台はアルバイトに任せている。今日はサンドイッチとから揚げを売っているみたいだ。毎日毎日、商魂たくましい。
気が付けば汗だくだ。うん、良い運動だ。毎日毎日素振りしてるのになんで太るんだろうか? 思い当たるのは一つ。食べ過ぎだろう。ついついアンやノノやオブが飯をがっつくのを見ると僕も食べすぎてしまう。それにマイの飯が美味すぎるのも原因だ。
「たのもーっ!」
野太い大音声。ヤレヤレまたか。今日は多いな。僕は気にせず素振りをする。たまには僕の仲間を下して僕にチャレンジする者は現れないものかな。だが、それは無いだろう。野試合で名を上げようと思ってる自体で弱っちぃ奴が多い。強かったら、冒険者や傭兵や騎士になって名声を得てるはずだ。
「「ラパン、ラパン、ラパン」」
メイド服にハンマーのラパンがギャラリーに応えチャレンジャーの前に立つ。相手は戦士か。秒殺だろう。ラパンは無手で相手の前でなんか挑発している。怒った戦士が剣を抜いて振り回すが全く当たらない。しばらく一方的に戦士が攻撃し続ける。そうなのだ。ラパンが人気が高いのは相手に一通り技を出させて、それをしのいで反撃するというスタイルなので、見てて面白い。
「「「オオオオーッ!」」」
ギャラリーから漏れる驚愕の声。戦士の突きで剣がラパンの喉に刺さってるように見える。けど、僕は動じずハンマーを振り続ける。そして、2人は動かない。いや、よく見るとラパンが剣の切っ先を右手の人差し指と親指で摘まんでいる。
ガキーーン!
金属がぶつかったような音がして戦士の剣が宙を舞う。2つに分かれたそれは風車のように回って地上に落ちる。ラパンが叩き割ったんだ。
「すみませんでした」
即座に土下座する戦士。小刻みに震えている。そうだよな。素手で鉄の剣を叩き割る化け物は相手にしたくないよな。曲げるくらいは普通の人でもなんとか出来るかもしれないが、折るは人外の成す事だ。
「「ラパン、ラパン、ラパン!」」
熱狂するギャラリーに手を振るラパン。ラパンが戦士に何か言って、戦士はトボトボと歩き去る。ラパンが心を折るような事をするほど才能が無かったか、それとも逆恨みするようなゲスだったから実力差を見せたのかは解らない。あの戦士はもう立ち直れないだろう。けど、それはまだマシだ。人外と剣を交えて生きているんだから。
僕は無心でハンマーを振り続ける。