タピオカミルクティー
「これ、うんめーな。ぷりぷりしてて俺は好きだな」
ザップはカップの飲み物を蓋とストローを外してグビクビ飲み始める。
私の名前はジブル。魔道と知識の守護者たる魔道士ギルドの本拠地、魔道都市アウフの魔道士学園の講師にして、ギルドを束ねる評議会の評議員をしている。今日はアウフの仕事上がりにザップたちと合流し、街で根強い人気を誇る飲み物をみんなで飲んでいる所だ。
その飲み物とは『タピオカミルクティー』。甘いミルクティーにタピオカと言われる芋のデンプンを丸めたプリプリとした食感の指の先くらいの大きさの粒々が入ったものだ。私の生徒たちが話題にしてたけど、なんか流行ものに飛びつくのは私の矜持が許さなく、今日マイが飲みたいと言い出したのに便乗して購入した次第だ。
魔道都市アウフ特産の魔法で作った透明なカップに茶色いミルクティーが入っていて、上にはフワフワなクリームが渦を巻いている。そして、カップを横から見ると、底には濃い茶色の粒々が沈んでいる。私は年甲斐もなく心が躍る。これは、私の生徒たちが夢中になるわけだ。見た目だけでもワクワクする。
私はそれを口に含む。太めのストローは小さな私には吸うのは少し難儀。口の中に滑り込んでくる甘い液体と氷の粒。それに混じってツルンとした物も入ってくる。それを噛み締める。なんか弾力があるお餅みたいだ。私もこれは好物に入れていいかな。
「ええーっ、そんなものが入っていたんですか?」
ドラゴンの化身のアンが声を上げる。彼女はそう言えば、飲み物を手にしたとたん、上の蓋を外して一気飲みしてたな。そりゃタピオカミルクティーが普通のミルクティーになるよ。
「はいはい、アンちゃん。そうすると思ってもう一つ買っといたわよ。次はこのストローでちびちび飲んで、タピオカさんの食感を楽しむのよ」
マイはそう言うとタピオカミルクティーをアンに差し出す。このドラゴン娘は学習しないのであろうか? 事あるごとに、液体が入った飲食物を一気飲みして同様な会話が繰り返される。
もしかして、持ちネタなのか? お替わりを貰うための策略なのか? いやそんなに彼女は賢くないだろう。本能の赴くままに生きてるだけだろう。
「ところでジブル、このタピオカってなんで出来てるんだ?」
ザップがあたしに問いかける。しょうが無いわね。
「これはね、タピオカ蛙という蛙の卵なのよ。調理してなかったらこの一粒一粒が成長してオタマジャクシになって大きな蛙になるのよ」
「へぇー、そうなのか。さすがジブル物知りだな」
ザップはキラキラした目で私を見ている。そんな目をされたら、今さら冗談話でしたって言えないじゃないの。
「よし、じゃあ今度、そのタピオカ蛙の卵を取りに行くぞ」
「うん、あたしもついてくわ」
「私も、私も!」
大丈夫かコイツら。誰ひとり疑いもしない。こんなので世知辛い世の中を生きて行けるのか? やっぱりコイツらには私が必要なようだ……
「ほら、ジブル、飲めよ」
ザップが私にタピオカミルクティーを差し出す。ザップにしては気が利くわね。私は一気にタピオカまで吸いこむ。うん、美味しいわ。けど、なんかタピオカがいつものよりヌルヌルしてるような?
「タピオカ蛙のタピオカミルクティーだ。美味しいだろ」
「ぶぶぶーっ!」
私はつい噴き出してしまう。
「もったいねーな。それって手に入れるの苦労したんだぞ」
「ごっ、ごめん。けど、今日はもう満足したから残りはアンにあげて……」
ま、まじか……
存在したのかタピオカ蛙……
この前恥ずかしながらタピオカデビュー致しました。なんか流行ものにすぐ飛びつくのってなんだかねー、と思ってて、ジブル同様『あれって蛙の卵なんだよ』って流言飛語をぶりまいてた私ですが、コレ美味いですわ。タピオカ中毒になった私でした。
という訳で、読んでいただきありがとうございます。
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