角力
「はっけよい! のこった、のこった」
デルが声を張り軍配を上げたのを皮切りに、僕とレリーフはぶつかり合う。正直一瞬怯んだ。なんか更に奴はでっかくなってる気がする。まるで弾力がある大木にぶち当たったみたいだ。さすがだレリーフ。奴は少し下がっただけでびくともしない。僕は奴のまわしを右手で掴み力任せに腕を振るう。レリーフは右足を踏み出してなんとか耐える。まじか? 全力なのに踏ん張られた!
「今日は角力をとってもらいます」
今日はデル先生の格闘技講座。いつメンのマイ、アン、レリーフ、パムで準備運動、基礎訓練をいつも通り終わらせたあと、デルが唐突に切り出した。
「なんで、角力なんだ?」
「それは、夏が近づいてるからです。夏と言えば角力。鍛え上げた男達による夢の競演。星月夜の中、神聖なる土俵の上で神衣たるまわしを纏った者達がぶつかり合う。これこそが真夏の夜の夢です。夏に先駆けて、皆で夢を実演しようではないですか!」
僕の頭の中に星月夜の下、まわし1つで角力をとるマイとデルの姿が思い浮かぶ。やべぇ、それは正真正銘真夏の夜の夢だ。良かった、この僕の人権がやたら低いこの講座を耐え続けて。こんなご褒美が待ってるとは!
デルは収納からなんか土を盛ったものを出す。その上は広く平らく縄みたいなもので円が描いてある。
「これは土俵です。この円から出るか、足の裏以外の所が地面についたら負けです。あと、森人角力では、鍛え上げた体にこの香油を塗って雌雄を決します」
デルはそういうとなみなみ油が入った壺も出す。そして、折り畳んだ布みたいなモのを僕に差し出す。あ、これはまわしだな。
「もしかして、俺とお前達が角力をとるのか?」
やべぇ、まわし1つでマイやデルやアンと角力をとるのか? そりゃ高レベルすぎだろ。
「え、何、しれっと変態な事言ってるんですか? 私達女性陣は鑑賞するだけに決まっているじゃないですか」
え、やっぱりそうか。僕のドキドキを返して欲しい。ああ、天国妄想から一気に地獄だ。
そして、当然の如く、僕は筋肉魔神レリーフと角力をとっている。まあ、一度は奴の力を見てみたかったからいっか。
左腕でもまわしをとってレリーフを右に左に揺すぶる。なんか生暖かくヌメヌメとしたレリーフの体があたって気色わるい。まじか! 全力なのに奴は耐え抜いている。僕は全身から汗が噴き出るのを感じる。なんか、『すもう』というより『ふもう』だ……
ガシッ!
下らない事を考えてるうちに、僕の両腕越しにレリーフが僕のまわしを掴む。ギリギリと腕関節を上から締め付けてくる。なんか抱き締められてるみたいで、とっても気持ち悪い。やっべー、レリーフの腕、僕の足くらいありやがる。これは、閂と言う奴だな。けど甘い。これしきでは極まらない。
「うおおおおおおーっ!」
叫びを上げてレリーフは僕を持ち上げる。ヤバい。地に足がつかない。そしてレリーフはそのまま土俵を前に進む。万事休す、このままでは外に出ちまう。
「そいやっさー!」
掛け声一閃、僕は弾みをつけて、何とか着地し、腕を切り払い跳躍する。レリーフの肩に左手をあてて、くるっとその上に倒立してレリーフの後ろに着地。そして、レリーフの勢いを加速して押し出す。たたらを踏んで土俵をわるレリーフ。
「勝者ザップ!」
デルが軍配を上げる。ヤバかった。負けてもおかしくなかった。レリーフ強すぎるだろ。
「よし、次はマイ、その格好でもいいから戦ってみるか?」
「いいわよ」
まじか? 僕とマイが組んずほぐれつ……
「二対一ならね」
そして、土俵に上がったマイとアンにボッコボコにやられた。ひどい……
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。