姫と筋肉 筋肉いんラーメン屋
「………………」
長い行列を待ちに待ちながら並び、やっと店内に入りテーブルに案内される。店内に満たされる豚の匂い。まるで焼き肉で豚バラをのべつ幕無し焼きまくったかのような強い香りが鼻をつく。その匂いは店内に染み付いているかのようで、ここがオープンしてまだ日が浅い店だという事が信じ難い。
案内された時に相席でお願いされた時に若干気付いていた。
僕の目の前にはタンクトップでぶっとい腕を組んだマッスル。その大胸筋がビックンビックン波打っている……
僕の名前はラパン・グロー。最近出来た行列が出来るラーメン屋なるものに、はるばる朝靄の中、地方都市から駆けつけた冒険者だ。冒険者は体力と情報が命。流行ものは押さえていかないといけない。それに、僕の本業はウェイトレスでもある。自分の職場にフィードバックするためにも流行ものの分析は必須だ。いや、綺麗事はいいだろう。本音を言えば、メッチャ豚臭くてがっつりとしてるという風説のラーメンを食べてみたい、いや食べてやるのだ。ラパン・グローの名にかけて。
注文して、待ちながら、とりとめもない事など考えている。
左、右、左、右……
左、右、左、右……
1、2、1、2……
スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイト……
いかん、ついレリーフの胸に目が行ってしまう。しかも心の中で、奴の大胸筋の名前を連呼していた……
「レリーフ、お前、何してんだ。大人しく待て」
「何を言っている。私はお前が言うように大人しくしているではないか。行住坐臥、いついかなる時も筋肉に愛を注がねばな。お前もやってみるか? 意外に良いトレーニングになるぞ」
僕の胸に集中し力を入れてみる。出来ない。ちょっと力を入れる事は出来るが、動かない。交互に動かすなんてもっての他だ。いかん、何やってるんだ。ついつい試してみてしまった……
「力が入っているのは解るが、動かないな? 筋肉の動きを見てやる。とりあえず脱いでみろ」
「何言ってやがる。なんで僕がお前の前で脱がなきゃならんのだ!」
「すまん、ついつい、お前と話していると、お前が女の子という事を忘れてしまう。なんて言うかな、もっと女の子らしくてしたがいいと思うぞ」
「ぶっ殺す!」
「お待たせしました。ラーメン2つですね」
椅子を蹴って立ち上がった所で、ラーメンが運ばれてきた。
「ラーメンのおかげで命拾いしたなレリーフ。今度、僕の胸の事でいじったら覚悟しとけよ!」
「はい、はい。そういう所を直す事の方が先決だと思うぞ」
なんかレリーフがウジウジ言ってるが今はラーメンだ。どんぶりになみなみ注がれたスープに肉塊が2つ、そして中央にどっさり盛られた炒めた野菜。僕は箸を手に麺を啜る。おお、美味い。こってりとした深い味わい。ドストライクだ。僕の新たな好物が誕生した。恥ずかしい思いして並んだかいがあるってもんだ。
「ずずーっ。熱っ。これは熱すぎるな……久遠の彼方より来たれ!」
いかん、レリーフがまた何か召喚している。僕の口の中はラーメンがいっぱいで話せない。床に現れる召喚魔法陣。そしてレリーフに傅く漆黒の鎧の騎士。
「およびでしょうか? 主様」
「ふーふーしろ」
レリーフがどんぶりから箸で麺を引き上げる。
「おおせのままに、ふー、ふー」
兜越しに麺に顔を近づけてふーふーする暗黒騎士。そっかレリーフ猫舌なのね。
分析するに、王国の1軍を壊滅させうる程の力をもった暗黒騎士がレリーフの麺をふーふーしまくる。明らかにオーバーキルだ。けど、今日の所はあんまり人に迷惑かけてないから放置。
筋肉巨漢の持ち上げた麺を凝視してるかのように見える瘴気を纏った暗黒騎士。その謎の儀式めいた食事を店内店外から見つめる人々。あ、間違いなく僕もあいつらの同類と思われてるや。けど、今はラーメンの事だけ考えよう。ラーメン、サイコー!
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