最終話 『最強の荷物持ち』
「死ねーっ!」
アレフの剣が僕の首に振り下ろされる。
その瞬間アレフの勇者のつるぎは消滅する。
そうだ、間違っていた。勇者アレフに対して、その一番得意な土俵で戦ってた事自体が間違いだ。
ゴオオオオオオオッ!
麻痺した体をフラつきながらなんとか起こし、勇者アレフに収納から出したドラゴンブレスを軽く放つ。
アレフは素早く盾を突き出すが、その盾も消失する。
「ウガガガガガガッ!」
アレフは炎に包まれ倒れ込む。
炎が収まり、倒れたアレフからは煙があがっている。
「なんだ? なにが起こっている?」
アレフはふらつきながらも立ち上がる。さすが勇者の鎧だな。炎への強い耐性もあるのか。
僕は手を握りしめ動く事を確認し、アレフに殴りかかる。アレフは高速でかわそうとするが、鎧が消失し減速し僕の拳が顔にめり込みふっとばされる。
そうだ、僕は『最強の荷物持ち』だ。
最強の武器は『魔法の収納』だ。
迷宮で二回目のドラゴンブレスを補充したとき、だいたい手を伸ばして2歩分くらい出し入れの間合いが広がってた事を思い出した。それに生き物以外は何でも収納できる。
当然勇者の三種の神器も仕舞い込めた。
わざわざ、勇者相手に真っ向勝負する事もない。
なに寝ぼけてたのだろうか? 自分の一番の強みを活かさないとは。
アレフを見ると、首を変な方向に向けて痙攣している。いかん! まだ、死んで貰ったら僕が困る。まだ、全然殴り足りない。
近寄って、アレフの首をゴキリと回してエリクサーをぶっかけてやる。
「なんだ? なにが起こっている?」
アレフは跳び上がると、後退し構える。
「お前の装備は全ていただいた。かかってこい!」
僕は両手を広げて挑発する。今、この瞬間、間違いなく僕はこいつを、勇者アレフを追い越した。
「馬鹿か! 俺は勇者だ、貴様なんぞに負けん!」
アレフは、毒の鞘の方に走る。コイツは何処までもとことんクソだな!
僕は加速し、先回りして毒の鞘を収納に入れる。
「この卑怯者め!」
こいつは何を言ってやがる。
「卑怯なのはお前の方だろう!」
アレフは飛びかかってきて、僕を蹴る殴る蹴る殴る。
遊んでるのか?
全く効かない。
アレフは一通り暴れると、距離をとり肩で息をしている。
さっきまでは緊張してたのか、何も見えなかったが、今は回りがよく見える。
コロシアムの観客席から笑い声が響く。
「なぜ、俺が笑われるのだ? 俺は勇者なのに……」
アレフは気付いていない。自分がパンツ一丁だといくことに。パンツも取ってやろうかと思ったけど、見たくないから止めた。アレフの服は僕の収納に入っている。後で燃やして消毒しよう。
「覚悟しろ、勇者アレフ!」
僕はアレフを思いっきりぶん殴った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「俺の負けだ……殺せ……」
アレフはその場に崩れ落ちた。
ようやくアレフの心が折れた。
殴り倒す、エリクサーで回復させるを延々と繰り返した。正直、パンツ一丁で立ち向かってくるアレフはすこぶる気持ち悪かった。これからこの王都では後ろ指さされるに違いない。
アレフは倒れて全く動かない。気を失ってるのだろう。
「勝者ザーップ!」
レフェリーが僕の名を大声で叫ぶ。
『ウォオオオオオオオッ!』
コロシアムが割れんばかりの歓声に包まれる。
「おっしゃ――――――っ!」
僕は叫び右手を天に突き上げる。
勝った!
勝ったんだ!
僕は今、勇者アレフ、『ゴールデンウィンド』を乗り越えたんだ!
「ザップー!」
マイが走ってきて僕に飛びつく。僕はそれを強く抱きしめる。アンも僕に抱きついてくる。一緒に抱き締めて頭を撫でてやる。
「ありがとうザップ!」
ポルトが僕のそばに駆け寄って来る。
僕の頬を温かいものが伝う。嬉しくても涙ってでるものなんだな。
僕たちは大歓声の中、勝利の実感を噛み締めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「本当に出て行くのか?」
ポルトこと、ポルティングス王は玉座から立ち上がり、僕をまだ引き留めようとする。今は人払いをしているので、言葉使いがいつも通りだ。
あのあと、第一王子を追放し、王に頼まれすぐにポルトは即位した。
「悪いなポルト、俺は決めたんだ世界を見て回る事を」
「たまには、お土産もって来てあげるわよ」
マイはポルトに手を振る。
「また、ご飯たべにきますよ」
アンはポルトに微笑む。
「頼む、お前は来ないでくれ、軽く国が破産する……」
ポルトはアンから目を逸らす。即位パーティーでの事を根にもたれてるな。アンはパーティーのビュッフェを軽く壊滅させたからな。
「またな、ポルト」
「元気でな! ザップ」
僕はポルトと固い握手を交わした。
僕たちは新しい冒険を夢見て城を後にした。
第一部『最強の荷物持ち』完結
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感無量です。
この後、また話は続きますが、一応ここで完結です。ちょうど区切りがいい所ですので、楽しんでいただけましたら、ブックマークや広告の下の☆☆☆☆☆の評価をよろしくお願いします。
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あと、次の作品もよろしくお願いします。少し下品かもしれませんが興味がある方はぜひ。結構長いです。
最弱最強聖女《最強の竜戦士、超絶美少女聖女に変身する》
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たくさんの『いいね』ありがとうございます。このお話が『いいね』ナンバーワンになってます。2022.9.4
祝、1話での「いいね」の数100突破! 二番目です。 2023.4.3