精霊王と黒竜王の戦闘
「みんなまとめてブタになるのよ!」
精霊王と称される、ぽっちゃりハイエルフのノノの手から白い光が放たれる。その光はクニョクニョと蛇行し、次々とゴブリン共を突き抜けていく。そして、そこに現れたのは肉塊と行っても過言じゃない、太り過ぎた豚のようになゴブリン5体。恐ろしい、ヤバすぎるだろ。ノノが前にオブにかませたのはかなり手加減したヤツだったのか。ノノの本気恐るべし。ゴブリン、太り過ぎて立てなくなって尻もちついてるぞ。もはや何の生き物なのか解らない。絶対にノノだけは敵に回さないようにしよう。
「あとは任せたわ。黒竜王」
「解った、妖精王」
ドタドタと走って行く肥満児。浅黒い肌に切れ長の目の少年。黒竜王の化身オブだ。
ちなみに僕たち3人は今、北の森に魔物狩りに来ている。目的はダイエット。しっかり走り回って痩せる予定だ。このままだと、僕ら3人の食事はマイの命により野菜のみになっちまう。
「黒竜王爆砕撃!」
なんか言いながらオブはデブリン、いやデブゴブリンに殴りかかる。まぁ、この際デブリンでいっか。オブの拳がデブリンに突き刺さる。
ぺちん!
軽い音がするだけだ。デブリン、微動だにしない。ノーダメだな。
「黒竜王ブレスよ!」
「おうとも」
ノノにオブが威勢よく答える。
「深淵より来たりし、我が腐食の息で骨も残さず溶かし尽くしてくれるわ」
能書きなげーよ。しかも子供の高い声だから様にならない。
「食らえ、ふーっ」
オブは口を尖らせて、息を吹き出す。誕生日の蝋燭消しみたいだ。その吐息は徐々に黒くなる。デブリンに当たるが何も起こらない。ただ、辺りにスルメや魚の干物を焼いたような臭いが立ちこめる。オブのドラゴンブレスは、只のたちの悪い口臭なのか?
「くっそー、何て奴だ。僕のブレスが効かないなんて。そっか、奴は元々腐ってるようなものだから効かないのか。くうっ、なんて強力な魔物なんだ。精霊王、加勢してくれ」
おいおい、それは太ってるから何の種族か解りにくくなってるが、ゴブリンだろ? どこが強力なんだ?
「しょうがないわね。解ったわ。ノノに任せるのかしら」
ぽっちゃり少女がドタドタ駆け出してデブリンに迫り、気の抜けたチョップを叩き込む。
「ちぇすとーっ!」
「そいやっさー!」
「あちょー!」
「あべしっ!」
2人でなんか奇声を上げながら、デブリンをぴちぴち叩いている。激でぶっちょに群がるぽっちゃり2人。何の余興だ? なんか動物がじゃれあっているみたいにしか見えない。多分、あれは、母さん豚にかまって欲しくてちょっかい出す子豚たちだ。けど母さん豚は疲れてるから寝たふりをしている。そうだな、僕がもし母さん豚の立場だったら、あんな面倒くさそうな子豚はガン無視するな。動物を見てるとほっこりするものだ。
「…………?」
いかんいかん、さっきの外道な薬がまだ残ってるのか、頭がすこし変な感じだ。アイツらは豚じゃないっつーの。
ペチペチされてるデブリンはホケーっとしてて、残りの奴は寝っ転がっていて鼻提灯を披露してる奴もいる。なんかそこはかとなく平和な光景だ。ここはそっとしことう。アイツらにはいい運動になるはずだ。
僕は黙ってその場を後にした。
あいつら、敵としては厄介だが、味方としてはゴブリン以下だな……