精霊王と黒竜王
「おい、暑いだろ。勘弁してくれ」
僕は握られた手を振りほどく。
「とととっ」
子豚もといノノはたたらを踏むがなんとか踏みとどまる。おっと力入れすぎたか?
僕たちは今、森に向かっている。僕、ノノ、オブの3人でダイエットのために魔物をハントするためだ。もっと早く出発すれば良かった。日差しが暑い。
「全くレディーの扱いがなってない奴ね。レディーをエスコートするのは紳士の義務よ」
ノノがキッと僕を睨む。ぱっちりとした目、スッとした鼻。もしかしてこいつ痩せたらかなりの別嬪さんなんじゃ?
「おいおい、どこにレディーがいるんだ? オークの間違いじゃないか?」
「ほう、お前は眠ったり、トイレに行ったりしないのかしら? ノノはお前をいついかなる時も狙い続けるわ。そして新たなブタが1匹誕生する事になるのかしら」
僕はゾゾッと寒気がする。ノノの腰に手を当ててイキっているわがままボディを見る。嫌だ! 死んでもああはなりたく無い。間違い無く知り合いの女の子たちの僕に対する態度が変わる事だろう。僕がノノにそうであるかのように。
「すまん、悪かった。レディーだ。お前はどこの品評会に出しても問題ない立派なレディーだ」
げっ、社交界と言うつもりが、ついつい立派なノノの腹肉を見ていたら、品評会って言っちまった。
「レディーの品評会なんかがどこでやってるのかはこの際聞かない事にしてやるかしら。ザップとっとと手をノノに差し出すのよ」
「はいはい。お嬢様」
僕の差し出した手をキュッとノノは握る。なんか小さい手なのにじっとりしていて気持ち悪い。けど我慢だ。男には我慢が必要な時もある。
「ところで、お前、なんで俺と手を繋ぎたがるんだ? 大人の魅力って言うやつか?」
「ザップ、まずは鏡を見るのかしら。そしてにっこり笑ってみなさい。動物園に行った気持ちになれるわよ。確かにザップはイケメンだと思うわ。猿にしては」
「やんのかコラァ。誰が猿じゃ、誰が! もう容赦せんぞ! 泣かしちゃるわ!」
僕は子豚の手を振り払い、間合いを取る。あいつの得手は魔法。近距離じゃかわし難い。
「口の悪いガキにはお尻ぺんぺんしてやる!」
「ほう、脳筋物理バカの癖にノノとやる気? 魔道の深奥をみせてやるかしら」
構える僕たちの間に割り込む1つの影。
「まぁまぁ、暑いからイライラするんですよこれでも飲んで、涼んで下さい」
割って入って来たオブが僕たちに結露したキンキンに冷えたグラスを差し出す。それには涼しそうな水色の液体が入っていてとってもうまそうだ。ん、どこから出したんだ? ま、いっか。
「お前にしては気が利くな」
僕は受け取ると、グビッとグラスの中の液体を一口飲む。ああ、ひゃっこい。ノノは一気に飲み干してる。ん、この飲み物甘酸っぱいけどなんか苦い。なんだこりゃ?
「オブ、もしかして毒でもいれたのか?」
まぁ、たいていの毒は僕にとっては隠し味くらいにしかならないが。僕は更に液体を口にする。
「さすがですねザップ。それには新しく開発中のラブポーションを入れてみました。ノノさんとザップって喧嘩ばかりじゃないですか。肉体関係を持ったらもっと仲良くなれるんじゃないですか? それにラブポーションって高い金額で売れるそうですしね」
ぶぶっ!
僕は口の中の液体を盛大に噴き出す。なんだラブポーションって要は媚薬か? 何が肉体関係だ。なってたまるか。オブ奴、僕らを新薬の実験台に使いやがったな!
「んー、よく見るとザップとオブっていい男ね」
トロンとした目でノノが僕を見ている。僕もなんか異様にノノとオブが可愛く見える。これはヤバい。オブは瞬時にデブドラゴンに戻るとフワフワと上昇し始めた。逃げる気かっ。僕のオブ! 何が僕のオブだ。腐れドラゴンめ。いかん意識が持ってかれそうだ。
「うおおおおおおーっ!」
僕は叫びで意識を繋ぎつつ、無我夢中でどっかに向かって走り始めた。
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