斧な訳(神官戦士)
うう、寝坊してまいました。徐々にアップしてきます(T_T)
「ザップさん、最近はどうですか?」
ポニーテールを揺らしながら、少女は僕に問いかける。こういうときの『どう』って何に対してなのだろうか?
「ああ、ぼちぼちだよ」
なにが『ぼちぼち』か自分でも解らないまま答える。まあ、全体的にぼちぼちなので問題は無いだろう。
「そうなんですね」
彼女はそう答える。なんて内容が無い会話なんだろうか。
少し手を止めて彼女を見る。前屈みで耳を丁寧に刈っている彼女の胸元につい目が行ってしまう。魔法使いのルルほどでは無いが、凶悪に存在感をアピールしている物体の裾野が見えている。なんか悪い事したような気になり、すぐに目を逸らす。
けど、思い出せない。ど忘れして彼女の名前が思い出せない。
アリス、アナ、アンジュ、シザベル、イリア、順番に50音順に女の子の名前を思い浮かべてみる。困った時にはこれしか無い。ウ、『ウ』がつくものはロクなものが思い浮かばない。エリス、エリーゼ、『オ?』、オードリー、『カ???』…………
さ行突破、た行突破、そしてな行、は行と進んでいく。そして僕の女の子の名前のストックの貧弱さに気づく。
「ザップさん、どうしたんですか? そんな深刻そうな顔して」
神官戦士のなんとかさんが僕の顔を覗き込んで来る。近い、近い。僕は距離をとる。言えないな、名前教えてくれとは……
ミミガー、そりゃ、食べ物だ。ミケ、そりゃ猫の名前だ。なんか近いような?
「そうですよね。私たち人間って罪深い生き物ですよね。自分たちの暮らしを守るためとは言え、こんなに沢山の命を奪ってしまうとは……」
頼むから話かけないでほしい。お前の名前、思い出せないだろ! 喉まで出かけた言葉を呑み込む。
けど、さすが、なんとかさんは神官戦士。優しい娘なんだな。存在感無いけど。
ブシュブシュ。
なんとかさんは手を止める事なく耳を刈り続けてる。ん、ほんとに罪深いとか思ってるのか?
勝手になんか納得してるので、僕は名前探しの続きを始める。たしか『み』だったよな。ミカエル、それは確か天使の名前。ん??
「そうだ、ミカンだ!」
「ミカンがどうしたのですか?」
「お前の名前、ミカンじゃなかったか?」
「嫌ですね、私の名前はミカですよミカ」
苦笑いが帰ってくる。良かった、ミカが大人で。怒ってないみたいだ。なんかギャグが不発だったような空気が残ってはいるが。そうだ、コイツにもあの質問してみるか。
「そういえば、なんでお前、武器は斧なんだ?」
「そうですね。本当はハンマーの方が好きなんですけど、みんな斧なのに1人だけハンマーなのはちょっとですね」
そうか、彼女は目立つのは余り好きじゃないのだろう。その主体性のなさが影を薄くしてるのかもしれない。けど、その常識人っぽさは嫌いじゃないな。
「あと、お前、低く横薙ぎの攻撃主体だけど、なんでだ?」
ミカはまん丸の目で僕を見つめる。そしてカァーッと赤くなった。え、なんか変な事聞いたか?
「教えないです……」
そう言うと、彼女は踵を返し走り去った。訳分からんけど、なんかこういうのって甘酸っぱくていいな。
あとでその事をルルに確認したところ、ミカの戦い方の理由は、重心移動が少ないと胸が痛くないからだそうだ。そう言うルルは大丈夫なのか?