表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

825/2101

 斧な訳(レンジャー)


「……」


 僕はせっせと作業を続ける。誰かが後ろで無言で何かしている。


「……」


 かなり速くなってきた。僕はプロだ。ゴブリンの耳狩りのプロだ。背中からブシュブシュ音がする。誰だろう。相変わらず無言だ。


「……」


 早く終わらせないと、日が暮れてしまう。相変わらずブシュブシュ聞こえる。気になるが早く終わらせないと。


「……」


 むぅ、気になる。僕の仲間でこれだけの時間無言で居られる人物に心当たりが無い。基本的に子供のようにとめどなく話続ける人ばっかだからな。


 我慢できず振り返ると、無言で、めっさマッハで耳を刈り続ける麗人。無表情で全くよどみなく手元が霞むくらいのスピードで片刃の斧を振るい続ける人物がいる。あ、僕は耳狩りのプロちゃうわ。僕の3倍はいけてるわ。自信が揺らいで心折れそうになる。彼女こそプロフェッショナルだ。今度から彼女の事は耳狩り先生って呼ぼう。

 その耳狩り先生の正体はエルフの野伏レンジャーのデルだ。まるで小剣をしならせてるかのように力む事なく斧を振ると、寸分の狂いもなく正確にゴブリンの耳をはね、それが宙を舞い消える。収納にしまっているのだろう。長い耳がピクピクしてるのは多分機嫌が良い証だ。コイツも少しサイコパスはいってるな。


「……」


 しかし、つい見とれてしまう。その容姿にも、その手さばきにも。こんなに正確に僕から権限を譲られた収納スキルを使えるのは、多分、彼女とマイだけだ。けど、どんな行動も早すぎるとなんかキモい。いい意味で変態臭がする。ん、いい意味で変態ってどんなんだよ。たとえば、どんな美しいダンスでもそれを10倍で披露すると滑稽に見えるってあんな感じだ。もっとも僕はダンスは下手の極みだが。

 さすが野伏レンジャー。正確無比で百発百中の弓射術を誇るだけある。しかも彼女は、うちの古竜アイローンボーの権能を何故か譲り受け、投擲必中のスキルを手にしてたはず。それに加え、ほぼ個体数を割り出せる程の精度をもった索敵能力。幼い頃からの修行により身に付けた鬼神のような格闘術。まさに完璧超人だ。

 彼女の職業は、野伏レンジャー。ところで、野伏レンジャーってなんなんだろうか? 彼女を見ていると、その定義が揺らぐ。これは、本人に聞いた方が早いかな?


「あの、耳狩り先生、つかぬことをお伺いしますが、野伏レンジャーって何なんでしょうか?」


 デルは不機嫌そうに顔だけこっちを向く。手は休めてない。ノールック耳狩りし続けている。空間認知能力か?


「ん、耳狩り先生は止めて欲しいです。なんかゾワゾワします。野伏レンジャーとは、野外活動のプロで、遠距離攻撃に優れ、索敵能力と野外での罠察知や作成に優れた者ですかね?」


 デルも疑問形だ。多分彼女自身も矛盾やわだかまり的なものを感じているのかもしれない。


「じゃ、お前、一応野伏だろ。メイン武器、弓とかにしたほうがいいんじゃないか? 野伏でいるために」


「……」


 デルは手を止め考え始めた。アイデンティティの問題だろう。もう野伏止めて、格闘家グラップラー野人バーバリアンを名乗れば早いと思うのに。


「確かにそうかもしれないです。けど、弓では岩のゴーレムや竜の鎧を貫けない。私は斧を使います。けれど、心は野伏。心が野伏である限り、私は野伏です!」


 そう晴れ晴れと言い放つと彼女はまた斧を振るい始めた。なんか少しイミフだが、まぁ、要は斧が好きって訳だな。日が暮れるまでに仕事終わらせないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ