斧な訳
「お前、剣も使えるだろ。なんで斧なんだ?」
僕は少女冒険者4人の1人、戦士アンジュに問いかける。確か彼女は騎士に憧れていたはず。それに、だいたい世間でもてはやされている冒険譚では、主人公の武器は剣で、斧を持つものはたいてい戦士やドワーフの戦士で、よく噛ませ犬的に死んだりする。
「そうですね、そう言えば、昔は剣しか使ってなかったっすね」
それからしばらくアンジュは手を止めて考え始めた。それに、そもそもなんでコイツはどっかの丁稚のような話し方なんだろうか? 切角の別嬪さんもあらかたこれで台無しだ。
僕は手を止める事なくせっせと働く。それにしても気分悪くなってくる。これは作業だと自分に言いきかせる。頭の中でやってる作業を薬草採取に置き換える。けど、薬草をつむ時には血は出ないし、薬草はこんなにブヨブヨしてない。
ちなみに僕たちが何をしているかと言うと、マイと少女冒険者4人が討伐したゴブリンの軍団の右耳を刈っている。ゴブリンの耳は冒険者ギルドで討伐証明として買い取ってくれるから、この数だとかなりの金額になる。前に面倒くさいから狩ったゴブリンをそのまま収納にぶち込んでもって行ったら、かなりギルドで嫌がられたので、今回は耳だけ持って行ってあとは集めて埋める事にした。
ピクニックのあとにはゴミ1つ残さない。それが社会のマナーだ。
僕とドラゴンの化身アンは見てただけなので報酬は無しの所、マイ様の温かい言葉で、耳狩りしたらおこぼれに与れる次第となった。
遠くではアンがとっても楽しそうに歌い上げるながら耳を刈っている。相変わらずサイコパスだ。面倒くさいから耳を取った死骸をドラゴンになって焼いてくれと頼んだんだが、『暑いから嫌です』と断られた。反抗期なのか? 確かに今日は暑い。けど、暑いから火を吐かないドラゴンってなんの役に立つんだろうか?
それで、僕とアンはせっせと耳狩りしてる訳だが、たまに交代で誰かが手伝ってくれたりしている。
「最初はマイ姉様に斧をいただいたから使ってたんすけどね。思い出すと、だいたい修行中は自分より強いヤツらと戦わせられたっす。格上の魔物でも、上から斧をぶっ込んだらだいたい倒せるっすからねー」
なんかデジャブだ。昔そうやってマイを鍛えたような……
「それに、巨大斧の二刀流、いや二斧流ってあんまり見ないじゃないっすか」
いや、あんまりじゃなくて、そんな奴いねーよ。
「やっぱ、冒険者って目立ってなんぼっすからね。それに剣とちがって斧って頑丈なんすよ。手入れの手間が半分で済むっす。ミノさんいっぱい倒してドロップしまくってるから、収納の中に予備はいっぱいあるっすからね」
ミノさんって、焼き肉かよ。
「あと、投げてもいい仕事しますからね」
それをぶん投げられるのはお前らだけだよ。
「という訳で斧はサイコーっすよ」
なんか解ったような、解らなかったような。ようは斧が好きって事なんだろう。