いふ3
「それでは次の方お願いします」
ノノの冷たい声が部屋に響く。けど、僕は見逃さなかった。奴の口の端が僅かに上がっているのを。奴は必死で笑いをこらえているのだろう。悪魔、まさに悪魔だ。人の不幸を完全無双に楽しんでやがる。
逃げた僕はしばらく後にはグルグル巻きに縛られて椅子に括り付けられていた。無理無理、あれは無理だ。このメンツから逃げようという考えが甘かった。
そして部屋は暗くなり、スクリーンにはまた新たな画像が映し出された。
「お前、ばかなのか? 普通逃げるよ。ワイバーンだよワイバーン!」
雪をかき分けて、薬草採取をしている僕。
キョロキョロして、何かを雪の上に見つける。
雪の上に腰に手をあてた小さな生き物が映し出される。背中にはセミとかトンボみたいな薄い透明な羽がついたヒゲもじゃのオッサンだ。うげっ、多分あれは妖精ミネアの男バージョンだ。部屋からざわめきが漏れる。
「なに呑気に薬草とってんだよ。逃げろよ!」
シュッ!
画面の中の僕は瞬時に妖精を雑に握る。
「お前、何してんだ? それにワイバーンはどこ行ったんだ?」
「オイラは、雪下草を守ってんだよ、お前達ばかばっかだから、オイラが管理しないと全部むしっちゃうだろ! ワイバーンはオイラの幻術だ、凄いだろ。攻撃に当たったらほんとに怪我するんだぞ!」
「ほう、そうかそうか、それは良かったな」
画面上の僕は軽く妖精を投げ捨てる。放物線を描く妖精。そして何事も無かったかのように薬草を採取して歩き始めた。
「き、鬼畜……」
ミネアの声がする。そして部屋は明るくなる。
「ちょっと待てよ、これは当然だろ。みんなも同じ事するだろ?」
「ノーコメントです。では次いってみましよう」
ノノの言葉でまた部屋が暗くなる。ミネアについては賛否両論あるはずだ。あんなひげもじゃな妖精、キモイだろ。
「お前が猿人間魔王を僭称してるというザップか?」
画面の中の僕の前に少年が立ちふさがる。プラチナゴールドの髪の毛を短く刈り上げ金色のブーメランパンツだけという出で立ちだ。
「「ぶぶっ」」
部屋の中で噴き出す声がする。あれは北の魔王リナの男バージョンだな。女の子ならまだ許されるが、それが男なら犯罪だという典型的な例だ。奴は細マッチョのイケメンだが、ただの変質者にしか見えない。
「いえいえ、人違いでしょう。私の名前はジャックですよ」
確か僕はチャップと名乗ったはず。偽名がより語感が遠いものになってる所に、画像の僕の拒否感の強さを感じる。
「ザップだろうがジャックだろうが関係ない。お前がこの国で1番強い。こっちに参れ」
手を掴もうとするリナ男を画面の中の僕はかわす。
「え、なんで私が1番強いって言えるんですか?」
「この国を回ってみたけど、カスばかりだ。朕の魔眼がお前が最強と告げておる。とっとと朕と戦え」
アイツ、自分の事を朕って言ってる。めっちゃ馬鹿っぽいな。それに、会話が現実と乖離し始めたな。魔眼って何だよ。
「はい、確かに私は『最強の荷物持ち』です。けど、それは魔法の収納に入れるものの量が多いだけですよ」
なんか、必死で一生懸命煙に巻こうとしている。徐々に画面の中ではギャラリーが増えている。
「そうなのか?」
しょんぼりとしてる男リナ。
「そうですね、多分王都最強はアンと言う名の少女。少女の姿ですが、正体は古竜です。戦うのなら彼女がいいでしょう」
「そうか、ありがとう。では探すとするか!」
男リナはどっかに向かって駆け出す。
そして画像は消え、部屋は明るくなる。
「確かにご主人様、私を最強って言いましたよね」
アンの弾んだ声がする。
「何言ってるのよ、あれってリナをアンちゃんになすりつけただけよ。最低ねザップ」
マイの非難がましい声がする。ふん縛られてるので後ろは見えないんだ。
「結論から言いますと、ミネアとリナは女の子だったからザップと仲よくなれた。男だったら冷たくあしらわれたという事かしら」
「ああ、そうだ。ミネアもリナも男だったらやばすぎだろ。普通かかわりたくないだろ」
僕は声を張る。この静寂は肯定だろう。僕は少し、リナとミネアが女の子で良かったと思った。