嗜好
あたしの名前はマイ。著名な冒険者、最強の荷物持ち『ザップ・グッドフェロー』の右腕だ…………と言えるのかなぁ……
最近ザップは、黒竜王オブシワンの化身の、目つきが悪く色黒でぽっちゃりの少年オブ。自称ハイエルフのぽっちゃりで何の役にも立たない生き物のノノを拾ってきた。オブもノノも自分の食費くらいは稼ごうと努力しているから、あたし的には何も思う事は無い。思う事はない。思う事はないんだけど、ザップってもしかして幼い者が好きなのかなぁ?
家の同居人たちは、あたし以外は少女、幼女、幼女、少年だし、ザップはよく美少女を拾ってきては隣のレストランで働かせている。よく考えると、家に来る冒険者4人も少女だし、あたしの周りにはあたしより年上に見える女の子は居ない。その事を、家に良く来る少女冒険者の1人、魔法使いのルルに相談したら、
「イエス、ロリータ、ノー、タッチ! イエス、ロリータ、ノー、タッチ!」
という訳が解らない呪文を唱えて喜んでいた。あたしでも解る。ロリータって言うのは、幼女好きな人の事よね。それで、最近は少し可愛らしい格好を心がけてたのだけど、ザップはノーリアクション。
もしかして、アプローチが間違ってたのかも。最近ザップと仲がいいのはオブとノノ。2人の共通点はぽっちゃり。あと、ザップは家に来るルルの大っきな胸をよくチラ見している。それに、隣のお店の主人のマリアさんとも仲がいい。マリアさんはぽっちゃりじゃないけど、ふくよかだ。そう言えば、ザップは昔お母さんを亡くしていて、義理の妹のティタちゃんのお母さん、義理のお母さんの事が大好きだったそうだ。
多分、間違いなくザップはぽっちゃりが好きだ。ザップは母性に飢えてるのかもしれない。あたしはその3人と比べたらガリガリだ。あたしは食べても食べてもあんまり太らない。どうにかしてもっとふくよかにならないと……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いいのかしら、後戻りは出来ないわよ」
あたしの前には、子豚もといノノがいる。彼女は丸々としていて、出ている手足はまるで赤ちゃんのようにぷりぷりしている。可愛いって言えない事もないけど、あたし的にはなんとも言えない。
「多分、マイは勘違いしてるわ。ザップが好きなのは私の体じゃなくて、類い稀なる明晰な頭脳よ。あんた、あんたには何があるの? 人に誇れるものが? あんたが太ったら何も残らないわ。ただの豚よ」
「あたしが、ただの豚……」
あたしは呆然とする。ノノの事は置いといて、そう、あたしには何も取り柄が無い。あたしが人より優れているもの。それはなんだろうか……
「それでは、行くわよ。『暴食者』」
ノノの指から出た光があたしに迫る。嫌だ。やっぱりおでぶは嫌だ。時の流れが緩やかに感じる。もしかして、死ぬ前の走馬灯ってやつなの? 行ける、まだ間に合う。あたしは全力集中して、妖精ミネアから教えて貰った魔法を紡ぐ。
「ハァアアアアーッ!」
気合と共にあたしの周りを光が覆う。生き物は生命の危機を感じるととてつもない力を発揮することがあるという。今のあたしがまさにそれだ。あたしを覆う光に触れて、ノノの魔法は消え去った。
やっぱり、デブになるのは死んでも嫌!
「そ、それは絶対魔法防御!」
ノノが声を荒げる。ナニソレ?
「マイ、あんた大したものよ。あんたは今、全ての魔法を超えたのよ。いいわよ、あんたを太らせてあげる。ただの豚じゃなくて無敵の豚になれるわよ」
「豚は嫌ーっ!」
あたしはノノの前から逃げ去った。あたしはあたしのまま頑張る事にするわ。
久しぶりにエッセイ投稿しました。
『鍵』です。よろしかったらご覧下さい。下のリンクから飛べます。鍵の事でびっくりした事です。
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