番外編SS 荷物持ち少女冒険者達に対決をせがまれる2
「あの、ザップさん。私達と1回本気で戦ってもらえんすか? お願いします」
少女冒険者4人のアンジュはそう言うなり、僕の前で土下座する。後の3人もそれに続く。
なんか懐かしいシチュエーションだな。そう言えば、昔しつこく対決をせがまれたもんだな。僕の呼び名が『ザップ兄様』から『ザップさん』に変わっているのが、何とも言えない。威厳が無くなったと言うか、距離が近づいたと言うか。まあ、色んな情けないとこ見せたから前者が大きいと思う。
ここは、町の家から離れた少し小洒落たカフェだ。僕はコーヒーを嗜んでいる。最近は家にかしましい奴らが増えたので、静かに読書したい時にはここに来ている。ここでは顔は売れてないので、いたいけな少女達に土下座されたら困る。来づらくなっちまう。
「とりあえず、頭を上げて座れ」
「「「はいっ!」」」
「正座はやめろ。ちゃんと椅子に座れ」
誰が教育したのだろうか? こいつら常識が少し斜めに成長してるな。ドラゴンの化身アンの顔が頭に浮かぶ。
「お前らはもう、いっぱしの冒険者だろ。しっかり節度ある行動をとれ。そう安々と土下座なんかするんじゃないよ」
僕は優しく諭す。これからは穏やかな大人の男としてコイツらに接して行こう。そして、また『ザップ兄様』と慕われたいものだ。
「それ言うなら、ザップさんは、かなり名の知れた人物ですよね」
魔法使いのルルが口を開く。巨大な胸がテーブルに乗っている。天然なのか? 挑発なのか? ツッコミ待ちなのか? 判断に困るが、リアクションの正解は多分スルーだ。
「そうかもな」
肯定したら、なんかイキってるみたいだし、かと言って否定は卑屈だ。ここは大人の男として曖昧が正解だろう。
「それにしては、ザップさんも、いつもマイさんに土下座しまくりじゃないですか?」
ゲッ、ブーメラン。コイツらに土下座を教えていたのは僕だったのか?
「あ、あれはだな。平和のためだ。争いを避けるためならば、俺の安い頭なんかどれだけでも下げてやる」
「私達も同様です。大義のためならば、私達の安い頭なんかどれだけでも下げますよ」
影が薄い神官戦士のなんとかさんが言う。ダメだ、ゴメン、名前思い出せないわ。
「それで、大義って何だ? 今度は誰が俺を倒せばパーティーに加入してくれるのか?」
「「「ハイエルフ様よ!」」」
4人がハモる。え、まじそうなのか? ハイエルフ様そんな凄い存在が仲間になってくれるのか? 一瞬誰の事か解らない。あ、ノノか、あのぽっちゃりサイコパス悪魔か。あいつが今回の黒幕か。これはいかん、アレをこの純真な少女たちに混ぜたら、サイコパス悪魔が増える未来しか想像つかない。あいつが家に来てからさんざんだ。近々、奴が寝てる時にゴミ袋に入れて遠い森にでも捨てて来ようと思う。そもそも、僕がこんな遠いカフェに居るのもアイツのせいだ。
「ダメだ。お前らにアイツは扱いきれない。アイツを仲間に入れたいなら、俺を倒していけ!」
「え、ザップさん、いつもだったら勝手に連れてけって言うのに。やっぱり、『ハイエルフ様』は特別なんすね。みんな、ザップを打ち倒して『ハイエルフ様』に秘儀を教えてもらうっすよ」
アンジュの声をトリガーに4人は散開する。ハイエルフの秘儀がクソしか無い事を先に教えればよかった。しくったな、やるしか無いか。僕は鷹揚と立ち上がる。
「魔の理を極相まで至らしめれば、現れるは『世界』。呼べよ、歌えよ、叫べよ、人の子が『世界』には抗うこと能わず」
適当にアドリブで魔王っぽいことを言ってみる。4人の少女たちの視線を感じる。ビビれ。もっとビビれ。ヒャッハー、いい感じだ。
「ザップから強大な魔力を感じるわ。もしかしてこれって、王国軍と黄金竜と私たちを」
ルルの言葉を遮る。
「顕現せよ『世界』。世界魔法『太古の世界』」
僕の体が白く光輝く。
「うわっ、やっぱザップはんぱねーす。ここは逃げるっすよ。せっかく買った新しい装備失いたくねーっす」
アンジュの言葉に脱兎のように逃げ出す少女たち。フッ。まだまだだな。僕は光る自分の体を見る。これ、ただ聖気で体光らせてるだけだっつーの。
いつの間にか遠巻きに人垣が出来ている。僕を指差してる人もいる。そうだよな、光る人間って滅多に居ないもんな。
また、来られないお店が出来たな……