太古の世界(使用方法)
「ザップ、お前は魔法の頂点、世界魔法を持つ者として、もっと自覚をもった方がいいんじゃないかしら」
ノノが額に青筋を立てながら僕に説教している。事の発端は昼飯時にノノが鶏のから揚げを1個残して手を付けないから、多分ダイエットだろうと思って僕が処理してやったからだ。クドクドねちっこく長い長い説教はやっと終わったみたいだ。もうリビングにいるのは僕だけだ。みんな逃げた。
「解った。けど、この魔法ってどんな時に使えばいいんだ?」
確かに全ての物質を塩と化す恐ろしい魔法だ。けど、この前は、絶対的な防御力を誇る神竜王の鱗を壊すのに使ったけど、他に使い道あるのか?
「ううっ……」
ノノは言葉に詰まる。
「それに、そもそも何をしようとしてこの魔法を編み出したんだ?」
「それは、『分子分解』の魔法を突き詰めていったら出来上がったのよ。知的探究心ってものかしら?」
おいおい、疑問形になってるぞ。これは何も考えず発明したんだな。
「そもそも、お前の『分子分解』も何のための魔法なんだ? 速攻で裸になるための魔法なのか? 騎士団の宴会芸くらいでしか使えないんじゃないか?」
前に『みみずくの横ばい亭』のマリアさんに聞いた事がある。騎士団の貸し切りの宴会はそれは地獄だと。体育会系の激しノリで基本的に体を張った裸芸が炸裂しまくるらしい。そう言う時は店のウェイトレスはみんな休ませて、男のみで営業するそうだ。
「ザップ、あんたは不器用だから、自分の回りにしか魔力を放てないみたいだけど、もともとは光の矢のような分解光線を出す魔法だから。人を傷つける事なく武装解除したり、ゴミを分解したり、穴を掘ったりメッチヤ便利な魔法なんだから」
「じゃ、俺の場合のその便利な魔法の使い方を教えてくれよ」
「そ。それは……」
完全にノノは言葉に詰まる。けど、しょうが無いな。辺り一面を分解して塩に変える魔法の使い道なんかあるはずがない。まあ、僕の頭に浮かんだのは、嫌な奴の家、例えば帝国皇帝の居城を塩に変えてやる事くらいだ。嫌がらせにしか使えないな……
「ザップ、話は聞いてたわ」
いつの間にかキッチンからマイが戻って来ている。なんか最近マイはやたら可愛らしいエプロンをしている。今日もヒラヒラだ。なんでだろう。
「ザップ、それは素晴らしい魔法よ。物を分解する魔法じゃなくて、塩を生み出す魔法として考えてみて。王国は海が無いから混じりっけない塩はとっても貴重で高く売れるわ。ザップはその魔法を使うだけで、一生食べるのに困らないくらいは稼げるわよ。あたしの鑑定と同じくらい貴重なものよ」
マイが今まで何を混ぜていたのかわからないが、お玉を片手に力説する。ちょっと可愛い。
うん、そうだよな、純粋な塩って売れるよな。生活に困ったら試してみよう。けど、あんなに苦労して手に入れた魔法がマイがクイッとスキルポーションを飲んだのと同格って言うのは少し悲しい。逆に考えると鑑定のスキルってそれくらい貴重なんだな。今なら、マイが鑑定を手に入れてあんなに泣きじゃくってた気持ちが少し解る。
「まあ、1つだけ言えるのは、ご主人様は、露出過多な魔王のリナさんを軽く凌ぐ露出狂だと言う事ですね」
ふらりとやって来たドラゴンの化身アンが毒を吐いて消えて行った。世界魔法『太古の世界』は禁呪として末永く封印する事にした。
露出狂……
いつも裸に幻の服だけのお前だけには言われたくないわ。