悪夢
『時間が無いわ。ザップ、お前はこれから起こる事をしっかり心に刻みなさい。私が言えるのはここまで。下手な知識は身を滅ぼしかねないわ。足搔いて、足搔いて、大事なものを掴み取りなさい。何が起こっても心を強く持ちなさい。もう時間ね。さよなら、ザップ……』
立ちすくむ僕の頭に響く声。これはノノだ。遠いような、近いような所から聞こえる声。少しめまいがしたと思ったら、目の前に耳が尖ったぽっちゃりの少女。
「お帰り、ザップ」
ノノはにっこり微笑む。
「ノノーーーーッ……」
僕は我慢出来ずにノノに抱きつく。ブヨブヨだけど暖かい。僕の目から熱いものが溢れ出す。格好悪いけど、関係無い。
「もうっ、泣き虫さんね。けど、今だけは勘弁してあげる。けど、あんたのようなサイコパスがガン泣きするなんて、未来はやっぱり悲惨なのねー」
未来? 悲惨? 何言ってるんだ。て言うかここはどこだ? お尻のしたは絨毯? あ、ラパン? 確か天使の矢で死んだはずじゃ? え、マイとピオンとオブとミネア? みんな横になってる。
「痛い、痛いって。ザップ、放しなさい! 」
ノノが悲鳴を上げて僕はつい離す。マイに近づく。その胸は規則正しく上下している。息してる。生きてる!
「どうしたんだよ。ザップ。泣いたかと思ったら、マイの胸を見て。え、もしかして、かんの虫ってヤツ? まだ母乳が恋しいの? それとも、寝てるマイさんに悪戯する気なの?」
ラパンがこっちをジト目で見ている。
「何言ってやがる。マイが生きてるか確認してたんだ。何だ? 俺は夢を見てるのか?」
僕はどうにかマイに抱きつきたいのを我慢する。正直、夢でもいいからマイを力いっぱい抱き締めたい。
「やっぱり混乱してるみたいね。ザップ、これは夢ではないわ。あんたが今まで見てたのが夢のようなものよ」
ノノが絨毯の上をにじり寄ってくる。
「どういう事だ?」
「神聖魔法に、『予知』というものがあるわ。未来の断片を感知するものだけど、その魔法を凝縮して昇華させた魔法が『精密な世界』。対象者にこれから起こる事を精密に体験させる事が出来る魔法よ」
「これから起こる事? という事は、さっき俺が体験した事は、幻なのか?」
「そうでもあるけど、このまま同じ事をしたらそうなる確立が高い未来よ。まあ、代償は高くついたけど」
「なんで、最初っから言ってくれなかったんだ?」
「現実じゃないって知ってたら、普段通りに行動しないでしょ。そしたらそれが予知を歪めるかもしれないから」
「そうなのか……それで、なんで、俺に?」
「あたし、妖精王と呼ばれた者の封印解除、暗黒竜王オブシワンと神竜王ゴルドランの復活。あんたは全部に絡んでいる。多分、あんたがこれからの行く末の鍵を握ってると思ったからよ。それで、何を見て、何を体験したの?」
ノノは目を細めて僕に詰め寄ってくる。
僕は大きく深呼吸して、今までの事を話し始めた。