第七十八話 荷物持ち決断する
「何をさせるつもりだ、まずは内容を聞かせろ」
僕はポルトの目をじっと見つめる。ポルトも僕の目を見据える。しばらくしてポルトは口を開いた。
「今の第1王子は性根が腐った奴で、俺の調べた所、自分の次の王位継承者を俺以外全員暗殺したと思われる。3人の王子、2人の王女。俺は腹違いだが、第1王子と同母も2人いた。
何故そんな事をしたかというと、この国の法律で、次の王が決まるとき、不満がある王子は決闘を申し込み、勝てば相手を自由に出来るというものがある。俺は正式に第一王子に決闘を申し込んだ。
決闘は代理人でもよくて、そのために『ゴールデンウインド』の勇者アレフを第一王子は呼んだんだと思う。俺は仲の良かった剣聖と呼ばれた男を代理に立てようとしてたんだが、そいつは消息不明になった。生きてればいいんだが……
もはや俺の知ってる人間で強くて命を預けられるのは、ザップ、お前しかいないんだ……」
ポルトは僕に机にぶつけるかのごとく頭を下げる。
「頼む、俺の名代として決闘を受けてくれ!」
僕は迷う。どうするべきか。国のトップを決める大事な決闘に僕なんかが関わってもいいものなのだろうか?
勝敗で国の未来が変わってくる。1つの国、そんなに沢山の人の命運を背負うのは僕には荷が重すぎる。
けど、もし僕が断ったらどうなるだろうか?
勇者アレフは反則的に強い。剣の腕なら互角くらいだろうと言われていた剣聖が居ないのなら、決闘に出るポルトないしその代わりの者は、勇者アレフに軽く捻り潰される事だろう。
多分、ポルトは良くて幽閉、最悪殺されてしまう事だろう。気のいいこいつをそんな目に合わせたくない。
僕は勇者アレフに勝てるのか?
答えが見つからない。僕は強くはなったけど、それが勇者アレフに届くのかどうか?
勇者に勝てるのだろうか?いや、勝たねばならない。『原始の迷宮』での事を思い出す。幸運が重なって今僕はここにいるが、普通だったら今ごろは迷宮の奥に冷たい骸を晒していた事だろう。
勇者アレフ、いつかは絶対に倒すべき相手だ。
多分間違いなく、その決闘は国を挙げて大々的に行われる事だろう。
これはチャンスなのではないか?『ゴールデンウインド』にかつての恨みを利子をつけて返す。
衆人環視の中、プライドの高い勇者アレフをぶちのめす。
最高の舞台だ!
頭ではそう思っても、体は言うことを聞かない。いつの間にか、膝が震えている。怯みそうになる心を振るいたたせようとする。けど、のどがカラカラで声が出ない。そうだ、怖いんだ。さっき一瞬で僕を打ち倒した勇者アレフが……
「大丈夫! きっと勝てる! 信じてる!」
マイが横から僕の手をとり握りしめる。僕はマイを見つめ、彼女と出会ってからの事を思い出す。僕は鍛えて鍛え抜いた。間違いなく強くなったはずだ。暖かいマイの手が少しづつ、けど確かに自信を与えてくれる。
「受ける、受けてやる、その決闘!」
僕は立ち上がった。