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 レクイエム(2)


 足下に気を付けながら、僕たちは走る。不意に何かが動く。もしかして、生存者か? 血塗れの者が1人立ち上がる。立ち止まりその者を観察するが、何かおかしい。2メートルくらいの巨躯で、あり得ないほどの筋肉質。上半身は服が破けて剥き出しで、脇腹から数本の骨が突き出している。片方の腕は肩口からほぼ千切れかけていて、もう片方の手はねじくれて変な方向に曲がっている。


 治療しないと!


 僕は即座に駆け出し、エリクサーを振りかける。よく見ると、見た事がある顔だ。衝撃が走る。レリーフ、冒険者パーティー『地獄の愚者』のメンバーの1人、自称死霊術士ネクロマンサーのダークエルフだ。そのトレードマークである長い耳が千切れていたので気付かなかった。


「おい、大丈夫か? レリーフ!」


 どんだけエリクサーをかけてもその傷は癒えたように見えない。はちきれんばかりに鍛えられてたその体は、ツヤがなく、所々抉れたり、へこんだりしている。


「すみません、ザップさん。もう私にはエリクサーは効きません」


 レリーフがもごもごとゆっくりと言葉を紡ぐ。


「どういう事だ?」


「私は既に死んでます。死ぬ間際になんとか使った秘術『不死化ビカムアンデッド』で、どうにか動いているだけです。術は不完全だったので、もうじき私は朽ち果てます」


「おいっ、嘘だろレリーフ! お前が、お前が死ぬわけないだろ!」


 ラパンが駆け寄り、レリーフに更に何らかの魔法をかける。けど、その体には何も起こらない。


「パムたちはどうしたの?」


 マイが尋ねる。レリーフには、子供族ホップの吟遊詩人パム、戦士デュパン、聖騎士ジニーという仲間がいたはずだ。


「一撃で弾け散りました。私は筋肉のおかげで少しは持ちこたえましたけど、仲間は形すらもとどめてません。王国最強……伝説の前には象の前の蟻程度に過ぎなかった。もっと筋肉を鍛えておけば……私にはもう時間がないようですね。誰が適任でしょう? そうですね彼女かな……『死者召喚サモン・デッド』」


 レリーフの足下に魔方陣が現れる。その顔に辛うじて残っていた表情は消え失せ、レリーフは目を瞑り後ろ向きに倒れる。


「おい、レリーフ、嘘だろ。眠ってるだけだろ。冗談きつすぎるよ……」


 レリーフの巨躯に小さなラパンがすがりつく。その声は震えていて、大地に幾つものしみを作る。誰も何も言えない。本当なのか? あのレリーフが? 僕はまるで夢の中に居るみたいだ。パムもデュパンもジニーも死んだ? あの気の良い連中が…… 王都のギルドに行ったら、その最奥の席にいる彼らにまだ会えるのではと思ってしまう。そしてその中で人目を気にせず筋トレするレリーフがいるに違いない。僕の顔に熱いものが伝う。大地に横たわるレリーフ。もう、王都でその光景は二度と目にする事はない……


『ザップ、ラパン、遅すぎたわよ……』


 最後にレリーフが残した魔法陣から、白い煙のようなものが立ち上り、それが辛うじて人型を作った。シャリー、元聖教国の大神官シャリーだ……







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