レクイエム(1)
「なんだこりゃ……」
僕は立ちすくむ。辺りの地面を埋め尽くす、人、人、人……
僕を含めみんな、声を出せず、ただ立ちすくむ。
ほぼ王国の鎧を着ているが、ぽつぽつとそうじゃない者もいる。王国の騎士と冒険者だろう。動く者は何もない。むせかえるような血の臭いが充満している。所々に小山のような金色の塊、金竜の死骸もある。
ここで大規模な戦闘が行われたのだろう。血はまだ新しく乾いて居ないから、戦いがあったのはそう前の事じゃない。
僕たちは国境付近の村から街道を王都に向かって遡り、ここにやって来た。遠目にも悲惨な事になっているのは解ったが、もしかしたら生存者がいるかもと思い、絨毯から降りた。
「外傷があるものは少ない。武器じゃないもので、全身をつよく叩かれたような感じの者が多い」
死体を検分してたピオンが口を開く。
「なに、なにが起こったの」
マイは光が無い目で辺りを眺めている。やはり置いてくるべきだったか? マイやラパンには刺激が強すぎたかもしれない。僕はここまで悲惨な状況をみるのは初めてだけど、昔、従軍荷物持ちで、敗戦なども経験しているから、少しは耐性がある。
「よく見ると、少し乱れてはいるけど、死体が隊列を組んだままだよ。逃げる間もなく一瞬でやられたんじゃないかな」
ラパンは冷静だな。けど、その拳は強く握られている。これだけの人数を一瞬で殺戮するもの。見当もつかないが、ここには神竜王ゴルドランの死骸は無い。だから、奴の仕業と思うのが妥当だ。アイツはなんだかんだで、こんな事をするような奴じゃないと思ってたんだが。力を見せて武威で王国をほぼ犠牲者が出ないように制圧するんじゃと思っていたけど、僕の認識は間違っていたようだ。神竜王でももし違ったとしても、これを引き起こした奴はぶっ殺す。
「暴走、多分暴走してるんじゃないかな」
オブが口を開く。なんだ? この状況に心当たりがあるのか?
「なんだ、その暴走って?」
「多分、ゴルドランは暴走している。アイツは一定以上の傷を受けると、暴走して手が付けられなくなるんだ。よもや、この世界にまだ、奴を暴走させられる者がいるとは……」
なんだそりゃ? 暴走? そんなの関係ないな。やはり、神竜王と言っても所詮けだもの。自分で自分もコントロールできないのか?
「ザップ、あっちに向かって大きなものが移動したみたいだ。行くか?」
ピオンが言うとおり、死体が潰されて道が出来ている。僕らは、死体に気を付けながら、そちらに向かう。死体をそのままにするのはしのびないが、今はこの状況を引き起こした奴をどうにかするのが先決だ。