分子分解
僕は何もない白い所に立っている。立ってるという事は、何かしら足場になるものがあるみたいだけど、空間と大地の境界線は見当たらない。不意に、パッと景色が現れる。まるで夢から目覚めた時みたいだ。
僕は森の中に立っている。頭の中に聞いた事が無い言葉が流れている。割れるように頭が痛い。
「うぁああああっ」
耐えられず、頭を押さえながら片膝をつく。けど、そのあと口をついたのは、頭の中で流れる意味不明の言葉。僕は左手で頭を押さえつつ、立ち上がり右手を突き出す。体の中で魔力がが変換されて行くのを感じる。これでも一応鑑賞用の『ファイアーボルト』を使えるから、少しだけ魔法の事も解る。そして口からはトリガーになる最後の言葉が紡がれた。
「分子分解!」
分子分解、聞いた事がある。魔道を極めし者の一握りが扱う事が出来る、最高最悪の攻撃魔法。対象を分解して塵にするという容赦ないものだ。おいおい、ノノ、張り切りすぎだろ。なんて魔法を僕に与えたんだ。こんなの手に入れたら、僕が無敵になっちまう。神竜王を倒すんじゃなく消滅させてしまうだろ。それはやり過ぎだ。
イメージでは変換された魔力が体全体から右手に集まり光と化して対象に向かって放たれるはず。ん、右手に集まらない。僕の体全体が光る。げっ、多分暴発だ。これってヤバいんじゃないの? 下手したら僕自身が分解されるんじゃ。
カッ!
僕自身から光が溢れる。そして、何故かガクンと少し体が落ちる。目が慣れると、僕の体はなんとも無かった。ただ、いつの間にか僕の体を纏う服がまるっと無くなっている。体全体に激しい倦怠感がある。なにもしたくない。そうかほぼ全てのMPを消費してしまったんだな。そう思った時には頭がスッキリしていて、また服を着ていた。また頭痛と並行しながら訳がわからん言葉を吐いて、
「分子分解!」
また体が光に包まれて全裸になって身が沈む。今度はさっきより余裕があったので、服は消えてなんか白い粉になったのが見えた。
何だこれは? 『分子分解』って言ってるわりには、結果は全裸になるだけじゃないか。なんてクソのような魔法だろうか。これってなんの役に立つんだ? 考えてみる。
「分子分解」
風呂に入る時。いや、そのつど服が無くなったらもったいないだろ。
またいつの間にか、僕は自動で魔法を放っている。頭痛ーよ。
「分子分解」
誰かに抱きついて一緒に裸になる。一瞬、マイの顔が頭をよぎるが、それって、ただのたちが悪い痴漢だろ。
なんかさっきから少しづつ沈む位置が下がってるような。
「分子分解」
女の子が駄目なら男に抱きつく。それはたちが悪い痴漢じゃなくて、タチの人だろ。要は男同士で攻める側の人の事ですね。誰得だよ。くだらない事考えてるのは、頭が痛々しいのを少しでも紛らわすためだ。
「分子分解」
僕の頭では、この魔法を役立たせる方法が思い浮かばない。地面に沈み込む事と、全裸になる事から、この魔法は僕の身の回りのものを分解するという、無駄以外の何ものでも無い魔法だろう。あったまいてー。なんでこんな拷問みたいな目に僕があわなきゃならんのだ!
1つ決心した事は、ここから帰ったら、あの子豚をぶっ飛ばす。フェミニズムなんてクソ食らえだ!