マジックオーブ
「じゃ、ザップ行くわよ」
僕はノノに手を引かれて隣の部屋に連れて行かれる。ノノの手はぷにぷにで子供みたくて暖かい。
その部屋の中はガラクタにしか見えないものが所狭しと並べると言うか置いてあり、真ん中には黒い木で出来た値打ち物のような机がある。その上には光り輝く1つのオーブがある。人の手を模した台座に乗っている占い師が使う水晶玉みたいなものだが、その中に青色の炎のような光がちらついている。コイツがノノが言ってたタマタマことマジックオーブだな。
「なんで、他のみんなは連れて来ないんだ? それに、ソレを触ったらどうなるのか?」
僕は疑問を口にする。ただオーブを触るだけなら、別に問題ないだろ。
「あんた、仲間に無様をさらしたいの? 女の子ばっかだから、誰か好きな子もいるんでしょ? そのオーブには1つの魔法をインプットしてあるわ。それが『世界』に至るまでの工程も。あんた時間無いんでしょ。無理矢理頭に刻み込んであげるわ。そりゃ大変よ、頭がぶっとんじゃうぐらいに。多分、いや絶対のたうちまわるわね。陸に上がった魚みたいに」
「え、俺が魔法を覚えるのか? 俺は全く魔法の素質ないぞ。それにそんなに大変なら辞退していいか?」
「解ってるわよ。だけど、あったのよ、あんたに最適合する魔法が。あんたが今まで送って来た人生がそれを選んだんだとおもうわ。まさか、あたしが作った欠陥魔法がこんな時に役立つなんてね。けど、これなら神竜王ゴルドランにも効果あると思うわ。ザップ、目を瞑って心を穏やかにして、タマタマに触るのよ。頭に浮かぶものを全て素直に受け入れるのよ」
ん、話聞いてないのか? 辛いなら要らないって言ってんだけど。
「え、だから、しんどいなら止めたいんですけど」
「せっかくあたしが貴重なオーブを使って魔法を授けてやろうって言ってんのに、あんた何言ってんのよ。辛いのくらい軽く我慢しなさい。男でしょ。面倒くさいわね『傀儡』!」
ノノから握られてた手から暖かい何かが流れ込んで来たかと思うと、体が勝手に動き始める。必死に抵抗するが、体がいうことを聞かない。
「うわあい。ノノさまありがとう。すばらしいまほうをもらえてうれしいなあ」
僕の口から意志に反した言葉が漏れる。クソッ、やはり問題を先送りにしたらロクな事にはならないな。僕が魔法抵抗に弱いという事をしっかり改善しておくべきだった。
僕はノロノロと歩き、テーブルの上のオーブに手を触れる。
「長い時間と感じるかもしれないけど一炊の夢と一緒よ。魔法使いに借りた枕で寝て一生の夢を見て起きたら麦が炊ける時間くらいしかたってなかったと言う。だから安心して心ゆくまで頑張りなさい……」
辺りが白み、薄れゆく意識の中にノノの言葉だけが聞こえていた。