書庫
僕たちは屋上から続く螺旋階段を降りていく。しばらくして踊り場につき、そこにある扉をノノが開ける。その先は通路で大きく弧を描いているので、多分塔の内壁に沿っているのだろう。そしてその通路を左に進み、すぐに右手にある扉を開いた。
「しばらく捜し物してるから、ここで待ってて」
ノノはそう言うと部屋にある違う扉から出て行った。
部屋の壁にはびっしりと本棚があり、本で埋め尽くされている。明らかにノノの身長では届かない所にも本がある。どうやって取っているのか見てみたいものだ。部屋の中央には机と椅子があり、ピオンとミネアは部屋に入るなり腰掛けた。さっきの外壁の階段を登った事で疲れているのだろう。マイとラパンは本棚にある本を取ったり戻したりしている。僕も興味本意に本棚に近づくが、その背表紙にはミミズがのたくったようなや、渦巻きが集まったような訳が解らない文字が書き綴られている。だめだこりゃ。
「ラパン、読めるやつあるのか?」
「ううん、全く無いね。多分、古い文字だと思うけど、見たことない文字ばかりだよ。それよりも、ここにある本全てが魔道具だよ。僕にはなんの魔法がかかってるか判別できないけど、すごい量だね」
「保存、保存の魔法ってあたしの鑑定が言ってるわ」
マイが答える。どうでもいいけど、鑑定スキルって喋るのか? 鑑定が言ってるってマイは言ってるし。そうなら多分事務的なハキハキした声なんだろうな。
など、どうでもいい事を考えていると、扉を開けてノノが帰ってきた。意外に早いな。
「ザップ、あんただけついて来て。あたしのタマタマを触らせてあげるわ」
ん、入って来るなり、何訳が分からん事言ってやがるんだ? 僕が、ノノのタマタマを触る?
「あのー、ザップがノノの『ウウン』を触るって、あたし達はついてっちゃ駄目なの?」
マイがノノに尋ねる。マイのレベルでは『タマタマ』と言う言葉はまだ口にできないみたいだ。
「駄目よ。タマタマは大事なものだから、そうそう人には見せられないわ。それに、あんた達にはまだ早いわ。もっと成長しないと頭がぶっとんじゃうわ」
なんかみんなソワソワしてる。うん、状況を確認してみよう。これから僕は別室に連れて行かれて、ノノのタマタマを触る。しかも、普通の人は頭がぶっとんじまうくらいの強力なものを……
と言う事は、言葉遣いと、声から勘違いしていたが、コイツはヤバいタマタマを装備した男だったのか? なぜ、僕がそんな事せにゃあかんのだ? 新手の罰ゲームなのか?
「ん、ノノ、そのタマタマってなんなのよ?」
誰もが憚られた言葉をミネアが軽く口にする。さすが妖精。
「タマタマはタマタマよ?」
「だから、タマタマじゃわからんつってんのよ!」
とうとう妖精がしびれを切らす。タマタマ連呼は止めようよ。マイとラパンが赤くなってるよ。
「もうっ、察しが悪い奴らね。マジックオーブよ、マジックオーブ!」
ノノが半ギレしている。マジックオーブ? それも訳がわからんが、どうやら気持ち悪い事はさせられないみたいだ。良かった。
「マジックオーブなら、マジックオーブって最初から言いなさいよ、うちの連中はムッツリばっかだから、変な事想像してたじゃないの!」
ミネア、僕はムッツリじゃないぞ。周りが女の子ばっかりだから牙を隠しているだけだ。
「え、変な事って何想像してたのかしら?」
マイ、ラパン、ミネアでさえも、ノノの疑問には答えられない。
「金○」
ピオンの低い声が部屋に響く。さすが忍者、クリティカルヒットだ。それからしばらく、部屋を静寂が支配した。