解放
「そうね、そうだわ。あたしをここから出して欲しいかしら」
妖精王と呼ばれる、ハイエルフのノノは憂いを含んだ目で僕を見つめる。
「ごめんなさい。贅沢言いすぎたわね。ここの結界を解除するのは無理よね。ここから出るには下の地獄を抜けるしかないし、その出口のガーディアンは誰にも倒せないわ。あんた達ならなんとか凌いで外に出る事は出来るかもしれないけど、あたしは無理ね。あたしは戦闘能力は普通の人くらいしかないし。それに、あたしが使える魔法で世界に至ったものは無いわ。結界には通用しない。世界へ至る道は解っても、その源泉が足りないのよ……」
そう言うとノノはうなだれる。
「ノノさん、その源泉って何なのかな?」
ラパンが尋ねる。正直魔法の事は余り詳しく無いから話についていけないから僕は聞き流していた。
「そうね、あなた達風に言うとMPってやつよ。簡単に言うと、あたしは幾つかの世界魔法の知識はあるけど、MP不足で使う事は出来ないの。外部からMPを補充する方法はあるのだけど、ここにはその材料がないの。あたしがここから出るためには、外に出るしかない。要するに出られ無いのよ」
「世界魔法ってそんなに凄いのか?」
「凄いも何も、普通使えないわ。1つの魔法をつきつめて、進化させて、絶対に至るまでに濃縮したもの。絶対に至った魔法は事象だけでなく、世界を変革する事が出来る。だから、世界を変革する魔法、『世界魔法』って呼ぶのよ。魔法を濃縮するのには魔法にもよるけど、普通の1回の魔法に使うMPを1だとすると、最低でも1千、ものによっては1万は必要なものさえあるわ。だから、その魔法に関して最高の素質と血の滲むような努力で魔法効率を10倍、100倍くらいに引きあげる事が出来ないと、個人でその魔法は使えないわ」
ミネアの言葉で、なんとなくとてつもなく凄いのは解った。ミネアの『魔法なき世界』、モフちゃんの『猫の世界』、ジブルの『継ぎ目のない世界』、それらは実際はメッチャレアな魔法だったんだな。
「じゃあ、お前をここから出してやれば、そのお前の魔法に関する知識は全て俺たちに教えてくれるんだな」
「何言ってんのよ。無理に決まってるじゃない」
「じゃ、ついてこい」
僕らは寝てるオブを残して、外に出て、入ってきた例のぶ厚いガラスのような結界の所へ行く。
「じゃ、行くぞ、収納ドーン!」
何となく、無言でやったら盛り上がらないので今日はセリフ付きだ。瞬間にして目の前の結界は僕の収納の中に消え去る。多分いけそうだと思ってたけど、果たしていけた。
「うっそーっ! あたしの数百年はなんだったの……」
ノノは丸っこい目を見開いている。