第七十六話 荷物持ち竜少女に困らせられる
「何してるって、ご主人様の起きるのを待ってたんですよ」
ドラゴンの化身アンは、事もなげにさらりと言う。そうだ、こいつには、裸に対する羞恥心は皆無なんだ。ドラゴンはいつも裸だし。けど、手で隠しているのは、少しは人間生活で何かを学んでくれたんだろう。
「じゃ、質問を変える。なんで裸なんだ?」
「当たり前じゃないですか。変身したら巨大化するので、着てるものは全部破けますよ」
アンは小首を傾げる。
「そりゃそうか……って違う、お前魔法で服作れるだろ」
「それがですね、あの勇者に剣で斬られたときに、魔力もごっそり持っていかれたんですよ。服を作る魔法って魔力沢山使うんですよ、一晩寝て回復するまで、使えないですね」
「そうか、しょうがないな……」
僕は収納からミノタウロスの腰巻きを二枚だす。そしてアンの前の地面に置いてやる。
「後ろ向いとくからこれを着ろ」
「え、なんでですか、私はこのままでもいっこうに構いませんが?」
「俺が困るんだよ!それに裸じゃ街に入れんわ!」
「しょうがない人ですね」
「お前がしょうもないんだ!」
僕は後ろを向く。僕も男なのでアンはとても綺麗だったから少し後悔はした。
衣ずれの音がする。
「お待たせしました。これはご主人様の猿人間スタイルですね」
僕は振り返る。だめだこりゃ……
「胸を隠せ! 胸を! 胸の上に巻け! 馬鹿ドラゴン!!」
我慢出来ず、つい叫んでしまう。
アンは腰と肩の上に腰巻きを巻いていて、胸はほぼ丸出しだった。痴女か……
上から被さってる布でなんとか先端は隠れていたが、形のいい胸はほぼ丸見えだ。動いたら、全部丸見えになることだろう……それはそれでいいかも……
いかん、いかん、こんな奴街に連れていったら人垣が出来たあと街の警備兵に連行される事だろう。公衆良俗を乱す者として……
「おい、早く、着なおせ」
僕は再びアンに背を向ける。
「はいはい、注文が多いですね」
再び衣ずれの音がする。
「はい、これでいいですか?」
まあ、これでなんとか見られる格好にはなった。それでも肩を露出した今のスタイルはいささか扇情的な気がする。もう一枚出して、マントのように羽織らせる。
うーん、なんて言うか奴隷っぽいな、けど、他にしようがないので、諦める事にする。
いかん、下着をつけて無いって事を考えると、無意識的についつい目がいってしまう……
「どうしたんですかー、ご主人様? チラチラ私の方を見て?」
アンが悪戯っぽく笑う。気付かれたか?
「何でもない。行くぞ……」
僕はアンの前を歩き、出来るだけ彼女を見ないようにした。