第七十五話 荷物持ち誘導する
「こっちに来やがれ!」
たまにそんな事など言いながら、ドラゴンのアンをハンマーで撫でる。撫でるといっても派手に音はたててはいる。
それを見た人々が蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。特に城の方に逃げる人が多い。避難するなら城のそばが安全だと思うからだろう。けど、これは好機だ、『ゴールデンウインド』の連中の足止めになるだろう。
少しわざとらしいかもしれないが、他の人が見たら、僕がドラゴンと戦って、怒ったドラゴンが追っかけてるように見えてくれるはずだ。いや、見えていると信じたい。それで押し切る。平和な未来のために!
たまには転倒などしてリアリティを追求しながら、僕たちは城から出て大通りを南下していく。
「グゥオオオオオオオオーン」
アンが咆哮を上げる。恐慌効果のない、鑑賞用のやつだ。『ドラゴン、ここにいますよ』、僕にはそう言ってるように感じる。
それを見て聞いて、人々が叫びながら逃げ去っていく。アン、いい仕事だ。頑張れ!
「南大門に誘導する。道を空けろ!」
逃げ惑う人々に大声で伝える。人々に危害を加えない、器物を破損しないように気を付けながら、少しづつ南下していく。
程なくして、南を見ると道から露店や人々がいなくなってた。準備完了だ。
「おい! ドラゴン! こっちにきやがれ」
僕は南大門に向かって駆け出す。
ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!
ドラゴンのアンがそれを追いかけてくる。僕たちは全力疾走する。そして門に差し掛かり、僕は道を譲る。
ガゴーン!
ドラゴンのアンは扉に体当たりする。助走十分で、門の蝶番部分が壊れて扉は前に倒れる。修理代の事が一瞬頭によぎるが、不可抗力だ。僕には請求は来ないはずだ。そして、そのままドラゴンは走り抜ける。僕はそれを追っかけて行く。
少し走って振り返りそばに人がいないのを確認する。
「おい! あそこの山まで走る」
大声でアンに伝える。人に見られないために、大事を取って、結構遠くの山の裏で変身させる事にする。
汗だくになって走る。ドラゴンを引き連れて。僕は今何をしているのだろう。ふと、冷静に考えてしまう。
何というか、不毛だ。脇腹が痛い。長距離走は自分との戦いだ。折れそうになる心を鼓舞して、走る、走る、走る、何で?
そういえば何でこんなに苦しんで走っているのだろう、僕?
走らなくても、アンに遠くで変身してこいって言えばいいじゃないか。
僕は立ち止まる。ドラゴンのアンも止まる。
「おい、山の裏で変身して戻ってこい、ここで寝てるから」
アンは首を縦に振り、地響きをたてながら駆けて行った。
僕は横になり、大地に両手両足を投げ出す。
疲れた……
とりあえず、寝る……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ご主人様、ご主人様、戻りました。起きて下さいよ」
アンの声で目が覚める。
「ゲゲッ! 何してる!」
変な叫びが漏れてしまう。
全裸の美少女だ!
目の前には角の生えた全裸の美少女が立っていた。
アンだ、胸とお股は手で隠してはいる。
何してるんだこいつ???
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