鴨葱
「ううっ、ずびばぜんでしたーっ」
僕たちの目の前に赤フン一丁で、泣きながら土下座をしている少年がいる。殴る蹴る。水に浸けられる。締められる。正直少し可哀相だった。羨ましいという気持ちは羽根が生えて飛んでった。
子供は大事にするという優しいマイはどこに行ってしまったのだろうか? 人って変わっていくものなんだなぁ。お仕置きされてるオブ君を僕は遠い目で眺めていた。
気をつけよう。明日は我が身だ。もし、酔っぱらったりして、とち狂って彼女たちの入浴を覗いたりしたら、こうなるのは僕だ。たしかに締められたりしている時は素肌同士で触れ合ってはいるが、その感触を楽しむ余裕はなさそうだ。オブ君の顔がそれを物語っている。エリクサーで傷は癒やせるけど、やられているとき、痛いものは痛い。
「後で、コントロールルームとやらにあたしを連れて行って目の前で画像をけすのよ」
マイが腕を組んで冷たい目でオブ君を見下ろす。
「はい、畏まりました。消します。もったいないけど消します。ずびばぜんでしたーっ」
オブ君は床に頭をこすりつける。
「マイ、こいつの記憶は消去しなくていい?」
ミネアの問いかけにマイは首を横に振る。
「そこまでしなくてもいいわ。子供がした事だし」
そう言ってるわりには、えげつなかったよな。けど、暴れる彼女たちの姿は眼福ではあった。特にピオンの胸はえげつなく暴れていた。ワンピースじゃなかったら飛び出していただろう。そこまで見越していたのか?
「あと、君が何者なのか? 何がどうなってるのか、洗いざらい話してくれるよね」
ラパンがしゃがんで、オブ君に優しい笑顔を向ける。
「はい、畏まりました……。つい、皆様方を見ていたら、あんまり気持ち良さそうで我慢出来ず、ご一緒させて貰おうと思って来てしまいました。なんせ数百年ぶりの温泉なもので……」
マイはポータルを出すとオブ君にエリクサーをかける。
「分かったわ。オブ君は温泉が大好きなのね。じゃあ、みんなで仲よく浸かりましょう」
マイに促されてみんなで温泉に浸かる。オブ君を真ん中に車座になる。決して仲よく温泉に浸かっている絵ではないな。これで奴は簡単に逃げられないだろう。けど、オブのその蕩けた表情からするに、その心配は無用だろう。のぼせないように、お湯の温度を水を足して少し下げる。こういう細かい配慮が出来る僕は我ながらよきと思う。
まさか、迷宮を戻ってオブ君を確保しようと思ってたら向こうからやって来るとはな。手間が省けた。鴨がネギしょってやって来たようなものだ。やはり温泉は聖域、素晴らしい。
「お気づきだと思いますが、僕の名前は黒竜王オブシワン。またの名を魔道竜王オブシワンと申します。ピオンさん以外は以前お会いした事ありますよね」
オブ君こと、黒竜王オブシワンは蕩け顔を真顔に戻し話し始めた。