第七十四話 荷物持ち勇者達と共に戦う
「邪悪なドラゴンめ、正義の鉄槌を下してやる!」
キーン!
乾いた音が響く。アレフがドラゴンのアンの足に斬りつけたが、剣は乾いた音をたてて弾かれた。僕にはその一撃は全く見えなかった。
僕はダニーの横に移動して、それとなく呟く。
「なんだ? 全くみえなかったぞ?」
少しあざとすぎたか?
「あれは、勇者の鎧の能力、絶対先制攻撃、戦闘開始の時に超加速でほぼ先手を取れるという能力だ」
ダニーが嬉しそうに解説してくれる。やっぱこいつは脳筋馬鹿だな。
それにしても、なんてえげつない能力だ。
「チッ! アレフだけじゃ抑えきれないか!」
ダニーはアンに駆け寄り、大剣を叩きつける。だが、ドラゴンに乾いた音で弾き返された。
「アイスボール!」
ポポロの杖から出た氷の球がアンにぶつかる。けど、あたった所のアンの鱗に霜がふっただけだった。
「ブーストした魔法なのに、効いてるようには見えないわね……」
ポポロは後ろに下がり、再び呪文の詠唱をはじめる。
「神よ、我らに力を!」
マリアが祈り、僕たちを暖かい光が包み込む。力がみなぎってくる。
「アレフ、能力をあげた。つっこめ!」
マリアが叫ぶ。
そして、アレフはゆっくりと剣を鞘にしまう。
「アレフは何してるんだ?」
「見て解らないの?アレフは鞘に薬を塗ってんのよ」
僕にポポロが言葉を返す。薬?毒の間違いだろ。
そして音も無くアレフは剣を抜く。
「勇者の剣! 俺に力を貸してくれ!」
アレフの剣が光に包まれる。
「なんだ?」
「ああ、あれは、勇者の剣に力を込めている。光れば光る程切れ味が増す」
ダニーが、解説してくれる。もう大体解ったな、予想通りだ。
「くたばれ、ドラゴン!」
アレフが斬りかかる。その攻撃は微かにアンの足を切り裂く。血は出ていない。鱗で止まったみたいだ。
「もう、終わりにしてくれ!」
僕は叫びながら、収納からハンマーを出して、軽くアンを小突く。僕の意図は上手く伝わったようだな。アンは大きく頷く。
「グギャアアアアアアアーッ!」
アンは咆哮する。これは、恐慌効果つきのやつだ。
騎士も含め、『ゴールデンウインド』の四人も動きが止まる。
ゴンッ!
僕の攻撃がアンの頭を捉える。力は入れず、軽く叩いただけだ。
「俺が相手だ! ドラゴン! こっちに来やがれ!」
僕はアンに背を向け走りだす。まずは城の入り口を目指す。アンは僕についてくる。
茶番を続け、僕たちは城を後にした。アンが城壁を壊しながら進んで来たのは、不可抗力だと割り切って考える事にした。