罠
「なんで、俺達が、こんな冒険者ごっこなんかしないといかんのだ」
つい、ぼやいてしまった。時間無いのに。神竜王ゴルドランの侵攻が気になるのに。頭の中をいろんな考えがグルグルまわる。
僕たちはいま、ゴツゴツした洞窟の中みたいな所を進んでいる。親切にも、壁には一定間隔おきに松明が設置してある。先頭では、忍者ピオンが腰を屈めながら、キョロキョロしながら歩いている。索敵、罠察知のためだ。
「まあ、けど、あの男の子のいう事聞くしかないんじゃないの。あたしたちは、お願いしてる立場だし」
マイが頭の後ろで腕を組んで、僕に並ぶ。あんまり緊張感ないな。まあ、けど、話では初心者向けの冒険者体験型の訓練場という事だったので、問題ないとは思うが。
「そうよ、ザップ。ふてくされてないで、チャキチャキ終わらせなさい」
妖精がブンブン飛んでくる。
「お前が言うな。お前、見てるだけで、何もする気ないだろ」
「あ、わかった? アタシは頭脳担当。あと、ザップやみんなのメンタルヘルスケア担当よ。分からない事や、悩みがあったらドンドンいってね。ドーンと絶対可憐なアタシが解決したげるわ!」
「はい、悩みがあるんすけど、頭が良くないと思われる妖精がいろんな所で余計な事を言って物事をこじらせるんですけど、どうしたらよろしいでしょうか?」
「キィーッ、ザップ、アタシに喧嘩売ってんの。アタシのオメガデストロイパンチを食らいなさい! アチョー!」
妖精のへっぽこパンチをヒョイッとかわす。
「口だけだな」
「ウッキー! 妖精ダイナミックチェーンジ!」
妖精は空中でクルリと回ったかと思うと、その身が黒いもやに包まれて、ナイスバディのお姉さんになる。ミネア人間バージョンだ。緑色のワンピースを着ている。たぶん魔法の服だな。見えるけど存在しないやつだ。寒くないのか?
「じゃ、頑張れよ。パワーアップした俺のハンマーの能力確認をヨロシク」
僕は収納から出した。ハンマーをミネアに差し出す。
「え、ちょっと、能力確認? 分かったわアタシにまっかせなさーい」
ミネアはハンマーを受け取るとハンマーを片手で天に突き上げ、もう片手の手を腰に当てて片膝を曲げてもう片方を伸ばしたポーズを取る。なんか昔のダンスの決めポーズみたいで、めっちゃダサい。こいつももしかしたら、実際はけっこう歳くってるのでは?
「アタシにかかったら何がきてもイチコロよイチコロ!」
ハンマーをブンブンしながらミネアは先頭に立つ。
「ミネア、前に出るな、危ない」
ピオンの制止虚しく、前に出たミネアの姿が消える。
「うっひやー、死ぬかと思ったわ」
近づくと、かなりの深さがある落とし穴で底にはびっしり槍が敷き詰めてある。そこには、ハンマーの上で逆立ちしているミネアが見える。たまたまハンマーから落ちたから助かったんだろう。暗くてよく見えないがスカートがばっさ捲れている。あいつパンツ穿いてるのか?
「ヒャー、アタシがイチコロになる所だったわ」
ピオンに助けられてミネアが肩で息をついている。やっぱりノーパンだったらしく、僕は遠くで救出劇を眺めさせられた。
「ザップ、もしかして、これって僕たちを完全に殺しにきてない?」
座ってる僕の隣にラパンが腰掛ける。
「そうだな、やっぱり、あのガキ一筋縄じゃいきそうもないな」
僕たちは再びピオンを先頭に進み始めた。