子供
「ここは冒険者訓練場です。お1人様小金貨1枚で皆さんが憧れの冒険者の迷宮探索を命の危険無しで体験する事が出来ます」
目つきの悪い子供が営業スマイルを顔に貼り付けて滑らかに説明した。
テントの中には待合室のようなベンチのある小部屋があって、入るなり子供に番号札を渡された。部屋の奥にはカーテンのようなものがあって、その隣にある机に浅黒い肌に黒い髪の目つきの悪い子供が座っている。僕たちの前には3組の冒険者パーティーが待ってたみたいで、番号で呼び出されて、目つきの悪い子供と話をしたあとにカーテンの中に消えて行った。
そして、僕たちの番号が呼ばれて目つきの悪い子供の所に行くと説明が始まった。
うん、やっぱりこの子供なんか見たことがあるような気がする。
「命の危険が無いってどういう事なのよ?」
まずは妖精ミネアが口を開く。
「それは、中にいる魔物に殺されたり、罠で死んだりしたら、なんとこの奥の部屋に無傷で転移できるのですよ。けど、その代わり迷宮で手に入れた宝物や素材は没収される事になります」
なんだそりゃ?
「待って、迷宮で死んだら復活するの? そんな高度な術式、魔道都市にも存在しないよ。君、何者なの?」
ラパンが問いかける。若干その声は緊張している。
「僕はオブ。ただの商人だよ。ここではそうなるようになってるんだ。詳しい事は企業秘密だからおしえられないよ」
子供はまた営業スマイルだ。僕たちは顔を見合わせる。今、白状したようなものだ。こいつ間違いなく黒竜王オブシワンだよな。名前はオブって言ってるし。いきなり大当たりかよ。黒竜王がなんでこんな所でしょぼい商売してるんだろう。
「黒竜王さん、こんな所でなにしてるの?」
マイが優しく問いかける。
「え、黒竜王って何? 何の事だか分からないよ」
貼り付いたような笑顔で可愛らしい声を出す。なんかとっても嘘くさい。もしかしたらほぼ無いとはおもうが、オブと言う名の別人か?
僕はじーっと見つめる。
オブ君はサッと目を逸らす。ギルティだ。分かりやすすぎだろ。子供か? あ、見た目は子供だな。
「これ読んでくれないか?」
僕はアダから貰った紹介状を出す。
「紹介状ハートマーク? え、もしかしてラブレター?」
「ちげーよ。さっさと読みやがれ!」
「ザップ、ダメよ子供には優しくしないと」
マイに叱られた。けど、こいつの中身は子供じゃないはずだ。
「そうだよ。子供には優しくしないとね」
そう言いながら、オブは封筒を開いて中身を読む。
「ふーん、そういう事なのか。お兄さん達とお話してもいいけど、ここは訓練場。まずはここを利用してもらわないと、何も話したくないなー」
オブはまた貼り付いた笑顔で僕たちをみる。こすいガキだな。
「わかったわよ。楽しそうだから、やってやろうじゃん。ザップ、早くお金払って」
ミネアがブンブン飛び回る。しやーねーな。僕は収納から小金貨4枚出す。
「お兄さん、妖精さんも入れて5人でしょ」
「え、コイツも人数にかぞえるのか?」
しぶしぶもう1枚払う。なかなか痛い出費だ。
「それじゃあ、訓練場をクリアできたら、話を聞いてあげるよ」
「ああ、待ってろ」
「ご利用ありがとうございます。それなら、次の部屋に入り口があるから、そこから下に降りて行ってね。あなた方の冒険に幸あらん事を」
オブはそう言うと満面の笑みを浮かべる。うん、胡散臭い事この上ない。
僕たちはカーテンの奥に進む。次の部屋には地下に向けてぽっかりと空いたなだらかに下る穴があった。
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