強化
「じゃ、見てみるわね」
マイが僕のハンマーを手にする。マイ必殺の鑑定だ。
「うわ、集中出来ないわ。わかった、モストマスキュラーはわかったから。う、頭にさっきのポーズが。マイ、頑張るのよ……」
マイが心の中で何かと戦っている。そうなんだよ、ハンマーの声を聞くと、禿頭髭マッチョのイメージが頭の中から離れないんだよ。新手の攻撃か? もしかして、アダに強化されてハンマーが手に入れたのは精神攻撃なのか?
「ふう、集中、集中」
マイは一端テーブルにハンマーを置き深呼吸する。良かった。多分マイはジブル側ではなくこっち側だな。マッスル愛好家ではなさそうだ。正直、いつかマイの腹筋が割れてるのではないかとヒヤヒヤしていた。
「行くわね。鑑定!」
マイは目を閉じたあとクワッと目を見開く。マイの精神をここまで揺さぶるとは、ザップ・ハンマーさすがだ。ちなみに僕は気を抜くと未だにヤツの微笑みながらサイドチェストという胸を強調したポージングが頭に浮かぶ。誰か女の子に水着かなにかで同じポーズをしてこの記憶を塗りかえて欲しいものだ。
「『亜神器ザップ・ハンマー』、マッスルミノタウロス王のハンマー+4! 特殊効果、取得経験値40%アップ、瞬間自己復元! ここまではほぼ同じだけど、数値が上がってるわね。もう伝説の武器って言っても過言じゃないわ。そして、亜神顕現とスキル『アダマックス』……」
マイの顔が強張る。強化されてそんなにヤバい能力がついたのか?
「『亜神顕現』 ザップ力が、規定量溜まると、3分間だけ、亜神ザップ・ハンマーが顕現する。その、偉大な筋肉は全てのものを圧倒する事だろう……」
僕たちは言葉を失う。また、アレを見ないといけないのか……
顕現が3分間。さっきアダが急がせてたのはその時間のうちにハンマーに尻尾を食わせてパワーアップさせる為だったんだな。
その前に、ザップ力って何だよ。何て無駄能力だろうか。何が悲しくてマッスル鑑賞せにゃあかんのだ。
「それって、また、あの筋肉を触れるのね」
うっとりとしてる幼女導師。偏見かもしれないけど、アラサーの行かず後家ってマッスル好きが多いような? たまにバーとかで管巻いてるのに遭遇すると、僕でさえ筋肉ペタペタ触られてたりする。
「ご主人様、嫌そうな顔してますが、その能力って、ハンマーがご主人様を守ってくれたり、戦ってくれたりするんじゃないですか?」
アンがこめかみを押さえながら口を開く。コイツもハンマーの精神攻撃に耐えてるのだろう。コイツもこっち側だったのか?
「多分それは無いな」
僕の頭の中にはヤツがポージングする未来しか見えない。
「気を取り直して、スキル『アダマックス』 使用者のMPを消費して時が止まった不毀の物質と化す。スキルを解放するキーワードは『アダマックス』……これってすごいんじゃないの?」
マイがしげしげとハンマーを眺める。ハンマーは鈍い灰色の物質と化している。さっきのマイの言葉で発動したみたいだ。
「解除は念じるだけでいいみたいね」
ハンマーは元の銀色に戻る。
「けど、これで、神竜王への攻撃手段が手に入ったわね」
マイの言葉に僕は頷いた。