別離
僕は愛用のハンマーを手にする。このハンマーがさっきマッスルに化けてたと思うと気持ち悪い事この上ない。けど、今まで一緒に戦ってきた1番付き合いの長い相棒だ。握るだけで安心感に包まれる。
「もう、私も時間が来たようね」
アダがスッと僕の前に立つ。時間? 何の事だ?
「今し方、ハンマーに力を与えた事で、私がこれまで蓄えた竜気はもう底をついたわ。わたくし、銀竜王アダマックスがこの世に顕現できる時間はあと僅か。これだけ蓄えるのには、数十年、いや、数百年かかるかもしれないわ。ありがとう、ザップ・グッドフェロー。楽しかったわ。私が次に顕現するときには、もう貴方は居ないかもしれない。さようなら。アイボーンローをよろしくね。私の妹みたいなものだから……」
アダの体が光り輝く。僕に向かって屈託のない見惚れるほどの美しい笑顔がそこにあった。そして、1回そして2回光が溢れると、そこには始めから何も無かったかのようにアダの体は消え失せた。ファサッとその服が落ちていく。そして、地面近くにヒラヒラと数粒の光の粉が落ちていき、そして消えた。
「ア、アダマックス……」
つい呟く。一緒にいた時間は短いけど、なんというか寂しいようなそんな感情がわき上がる。
『もう、この世は人の子らのもの。私たち旧時代の古竜は世界に干渉するべきではないのかもしれないわ。ゴルドランはかつて古竜だけで世界を変えようとした事を憂いているけど、世界を一つにするにせよしないにせよ、それはこの世界に住む者たちが選ぶべき事。貴方がいえ、貴方たちが望むように……』
アダの声が徐々に小さくなって消える。
「アダマックス……消えちゃった……」
マイが呟く。
「あいつ、多分なにもかも知ってたんだな。それで、俺のハンマーに持ってる力全部を注いでくれた。多分、あいつの考えは神竜王を止めてくれという事だったんだな」
訳が解らないヤツだったけど、その行為の結果からはそうとしか思えない。
「ご主人様、アダマックスってもしかしていい人だったのかもしれないですね。妹みたいって言ってたわりには、私の名前間違ってましたけど……」
アンが少し悲しそうな顔をしている。
「大丈夫だ。お前の名前はアン。それでいいじゃないか」
正直僕も、アイボーンローだったかアイローンボーだったか解らなくなる。名前が言いにくいのが悪い。
「そうですね。けど、最初はアイって呼ばれてましたけど……」
以外にアンにしてはしつこいな。まぁ、名前を間違われるのは結構ショックだもんな。僕もたまにギャップとか、ザックとか間違われると腹立つもんな。僕は溝でもなければ背嚢でもない。
『なんか、しんみりしてる所悪いが、ザップ様、俺のスキルを早く確認してくれないか? フロントダブルバイセップス!』
僕の頭にザップ・ハンマーの声が響く。うるさいし、ボディビルの技の名前を言うのは止めて欲しい。覚えたくないのに覚えてしまいそうだ。