竜気
「え、何で? 教えるわけ無いじゃん」
アダマックスはそれが当たり前だといわんかのように自然に答える。つい、イラッとする。
「え、アダマックスさん、黒竜王の時は、ラパンに力を貸してくれたじゃないですか?」
マイが若干緊張した面持ちで尋ねる。古竜って事にビビってるのかもしれないが、僕の見た所、コイツの頭の中はアンに毛が生えた程度なんでは無いだろうか。
「ちょっと待ちなよ、私は、オブとは仲悪かったけど、ゴルとはマブよマブ。ゴルがなにやってるかは知らないけど、私が邪魔するわけないじゃん」
何かあったま悪そーな喋り方している。確かマブって昔流行った言葉で親友とかそういう意味だったよな?
そういえば、アンが全く喋らないな? アンの方を見ると、表情が固い。そういえばアンも古竜だよな。もしかして仲悪いのか?
「アン、お前からも説得してくれよ。知り合いだろ」
「えー、私がですか? あ、アダマックス、私たちに、き、協力してくれませんか?」
む、カチコチだ。アンにしては珍しいな。
「アボー、アダマックスって何か他人行儀よね、昔みたいに、アダって呼んでいいわよ」
アダマックスはそう言うと、コーヒーをすする。ベタ甘が気に入ったみたいだな。
けど、それはありがたい。アダマックスって言いにくいし、覚えにくいしな。アンのアボーって呼び名はなんか間抜けだな。それは置いといて、アンは使いものにならなさそうだな。コイツもあんなのにビビってるのか? どうしたものか。
「おい、アダ、どうしたらお前の知ってる事を教えてくれるのか?」
僕はアダをじっと見つめる。
「貴方にはアダって呼ぶことは許可してないけど、まあ、いいわ。それよりやっぱり、貴方おかしいわ」
アダがやれやれのポーズをとる。
「何がだ?」
「私、さっきからずっと竜気を解放してるのだけど、まったく堪えないみたいね。本当に人間なの?」
ん、竜気? そう言えば少しさっきからなんか空気ビリビリする気がするような?
「普通の人間はコレだけで、気を失ったりするものなんだけどね。面白いわ、あなたは私に聞きたい事あるのよね。私たち古竜はシンプルよ。弱い者は強い者に従う。それなら力を見せなさい。ここなら十分な広さはあるわね。分体だけど、ほぼ全力出せそうね」
アダが揺らりと立ち上がる。今なら僕にもその竜気と言うやつを感じる事が出来る。何もないのにアダから強い風が吹いて居るように感じる。
「ご主人様、マイ姉様、下がってください」
アンは叫ぶとあたふたと走り去る。
女の姿をしたものと戦うのは本意ではないが、相手は古竜。けど、強そうな者を見ると戦いたがるって、なんて迷惑で野蛮な生き物なんだろう。多分この次にはアダは竜に戻る。その前に、
「テイッ!」
テーブルを乗り越えて、アダを思いっきり突き飛ばす。アダは吹っ飛びながら銀色の光に包まれて膨れ上がる。そして、後ろの壁にぶち当たる。あ、やり過ぎた……
ガッ! ドゴゴゴゴッ!
岩壁は崩落し、しばらくあとには、壁に頭を突っ込んでへそ天で転がっている巨大な銀色の竜。けど、ドラゴンってへそあるのか?
もしかして、やっちまったのか?