写し身
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『戦いの中で強くなれる者のみ進め』
先程通った扉に書いてあった文言を思い出す。
迷宮のバージョンアップでなのか、先日ここを訪れた時、昔アンと戦った広間にはもうドラゴンは居なくて代わりに『ドッペルゲンガー』という魔物がいた。僕たちの能力をコピーして戦ってくれるという素晴らしい魔物だったのを覚えている。
通路から広間に出て先に進む。
僕たちの目の前に黒い霧が集まり4つの人型が出来る。それはよく見知った人物、僕、マイ、アン、ジブルだ。けど、客観的に見ると、全く冒険者には見えないな。マイとアンは普通に街中で見る女の子みたいな格好だし、ジブルは緑のワンピース、僕もシャツにズボンにコートという完全普段着だ。
「うわっ、もしかして、ドッペルゲンガー? 初めて見ました。やっぱりこう見ると私ってめっちゃ可愛いわね」
ジブルが興奮して前に出る。
「せいっ!」
僕の分身が瞬時に前に出てジブルに蹴りを繰り出す。ヤクザキックだ。むぅ、言いたく無いが、足、短いな……
「何するのよ、ザップ!」
ジブルは何とか避け、僕を非難する。あれは僕じゃ無く偽者だっつーの。
「ジブル、あいつら身体能力は僕らとほぼ変わらないぞ、試しに戦ってみるか?」
「何言ってんのよ、無理に決まってるじゃない」
「それなら、各々、自分の偽者と戦うって事でいいな?」
「はーい、了解」
マイはマイの偽者に向かって駆け出す。
「ご主人様と戦ってみたかったけど、今日は我慢しますねー」
アンも自分の偽者に向かって行く。
「え、ちょっと、私、無理ですよ、あんなにいたいけな少女と戦えないですよ」
「黙って行け」
僕はジブルをジブルの偽者の方に押しやる。
そして、各々、自分の偽者と戦い始めた。
「うわ、何やってんですか!」
ジブルの声がする方を見ると、ジブルの偽者がアンにやられていた。拳が体を突き抜けている。なんかかわいそうだ。
「しょうがないじゃないですか、コイツが私に後ろから襲いかかってきたから」
そう言うと、アンは偽者との戦いに戻る。どうもジブルの偽者がアンにバックアタックかましたみたいだ。そうか、ジブルは偽者でさえ卑怯なんだな。
僕は自分の偽者との戦いに戻る。自分自身との戦いはいいものだ。自分の悪い癖がよくわかる。気付かないうちにテレフォンになってる攻撃、重心移動のあとの一瞬の隙。まだまだ修行しないとな……
ばくん!
僕の目の前の僕の分身が巨大な蛇に呑み込まれた。これはヒドラジブル!
「ごちそうさまでした。ザップを美味しくいただきました!」
こ、こいつ、邪魔しやがって! 許さん!
「ぶっ殺す!」
そして、僕とジブルの死闘が始まった。