進化
僕たちはダンジョンの浅層を駆け抜ける。ここ『太古の迷宮』では、地下19層までが浅層と呼ばれている。迷宮都市オリュンピュアの迷宮みたいに階層が選べるワープポータルがついていたら便利なのだが、ここにはそんな便利なものはついてないので、地道に降りて行くしか無い。
地下8層まではスライム、巨大な蜘蛛や、ムカデや、ゴキブリ、ナメクジなど害虫系が出現し、地下9層にはボスのキングスライム。そこから地下18層までは、ゴブリンとゴブリンの亜種、そして地下19層がゴブリンロード。それらを文字通り蹴散らしながら進む。面倒くさいので魔物全てを踏んだり蹴りとばしてドロップは無視だ。急いで何らかの神竜王の情報を持ち帰らないと、帝国軍が軍を再編し動き始めるかもしれない。それにしても賑わっている。魔物より、すれ違った冒険者の方が多い。
そして、地下29層までは中層と呼ばれていて、メインの魔物はオーク、二足歩行の豚だ。
「あ、あの人も持ってる」
すれ違った冒険者をマイが掌で指す。ちなみに冒険者の間では、指差し厳禁だ。指で指すという行為は冒険者間では『殺してやる』という意味があるからだ。その冒険者を見ると、腰に長方形の肉厚なナイフと背に木の丸盾と、大きな箱をたすき掛けにかけている。そういえば、中層ですれ違うパーティーには1人はそんな装備の者がいる。その疑問が解けたのはしばらく後だった。
幾つか部屋を通りすぎると、大きな部屋でオークを殲滅した4人組のパーティーがその死骸を解体していた。オークの下に上手く木の丸盾をずらしたりしながら、四角いナイフと刃が短いナイフでオークをみるみる肉の塊に替えている。
「あれが、ブッチャーだったのね」
マイがフンフン頷いている。
「ブッチャーってなんだ?」
「最近、王都のギルドの仲間募集掲示板で『ブッチャー』求むってあったりしてたんだけど、『ブッチャー』ってお肉を捌く人の事よ」
まじか、そんな職業が流行ってるのか。という事は魔物を食材として狩る事を生業としてるパーティーが増えたって事と、そんな補助職を抱えられる戦闘能力に余裕が出来てるって事だな。それなら、さっき見た串焼き屋の肉はあれだな。浅層の虫系も食料になってそうだな……
「アン、串焼きの肉、多分アレだぞ、それでも欲しいか?」
「はい、めっちゃ欲しいです!」
そうだった。こいつは口に入れば何でもいいんだった。
「あとでオークより美味い豚食わせてやるから我慢しろ」
「はいっ、約束ですよ!」
「じゃあ、今日のご飯は豚肉料理ね」
豚が解体されてるのを見て、すぐに豚を食べようと思えるマイのメンタルは凄いと思う。
日々、冒険者は進化し続けてるんだな。けど、ブッチャーはうちのパーティーには要らないな。マイがいるから。
いかんいかん、つい道草を。食べ物系の事になると、つい夢中になってしまう。アンの影響って事にしておこう。