最高打撃
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「その前に少し待ってくれ」
僕は神竜王に話しかける。これからのために少し仕込みをしないと。
『なんだ? どうかしたのか?』
「ああ、邪魔だからさっきばら撒いた剣をしまわせてくれ。あと、アン、先に戻っててくれ」
「嫌です! ご主人様、見届けたいです」
アンが僕の言う事をここまで激しく拒絶したのは初めてのような気がする。
「駄目だ。お前には伝言を頼みたい。マイやみんなに『すぐ戻るから待っとけ』と伝えてくれ」
「……分かりました。無茶しないで下さいね。ゴルドラン、ご主人様に何かあったら、私はお前を必ず倒す!」
アンはそう言うと、駆け出していく。アンは目の前のデカブツと違って繊細なドラゴンだからな。巻き込んだりしたら危ない。それに、マイ達にストップかけとかないと、みんなしてここに乗り込んできそうだ。
僕は収納のポータルを出して、辺りに散らばった、さっき『剣の王』で放った剣を回収する。数打ちの剣といえど、全部集めたら結構な金額になる。こっからが勝負だ。テンポよくいかないと奴に気付かれる恐れがある。ポータルには新たなコマンドを与え、僕は全身に力を入れる。
まずは一撃、しかも今の僕の全力を込めた一撃を放ち、これからの指針にする。
目の前には巨大な金色のドラゴン。だが、恐怖は感じない。どうもコイツの目的は僕を倒すのでは無く、屈服させて従わせる事みたいだからだ。
「オオオオオーッ!」
僕は雄叫びを上げる。本当に全力を出したい時には叫ぶのは必須だ。それだけでより力が出る気がする。
『かかってこい、ザップ。これが神竜王ゴルドランの力だ!』
「グゥオオオオオオオオーッ」
神竜王が吼える。その体が金色に更に光り始めたように見える。もしかして、これがさっきの権能というやつか?
僕は駆け出し、ハンマーを大上段に振り上げる。そして、跳び上がり、体を大きく反らす。全身の筋肉をつかう為だ。狙うのは奴の首元。出来れば頭をぶん殴ってやりたいところだが、僕の跳躍力では厳しい。ポータルを足場にしたらもっと高い所を攻撃出来るが、今はポータルは出払っている。僕の体が放物線を描き、落下し始め突進力に体重が乗ったところで、狙っているポイントに近づく。全身に力を込め、ハンマーを振り下ろす。その途中、右手でハンマーの鉄球に手をあて、鉄球を押し付けるように叩き込む。相手が固すぎる時にはハンマーの柄が折れるかもしれないからだ。最高、僕の出しうる中での最高最強の打撃が完成した。
ドゴッ!
僕の渾身の一撃がドラゴンの首元を捉える。地味だけど重い音が響く。ま、まじか? 駄目だ振り抜けない!
僕はドラゴンの体に弾かれるが、上手く後方宙返りで着地する。格闘技訓練で投げられ続けた賜物だ。
『ザップ様……俺は……しばらく使い物にならない……すまない……』
僕の頭の中に、途切れ途切れの野太い男の声がする。この声は確か『ザップ・ハンマー』。僕のハンマーの声だ。ウザい事にコイツも喋る。前にうるさいと怒ったから、最低限しか話しかけてはこなくなった。
手の中のハンマーをみて絶句する。柄は折れ曲がって、鉄球はひしゃげて神竜王に当たったと思われる所は綺麗に平らになってる。鉄球がお饅頭みたいな無残な姿になっている。
僕のハンマーでこれなら、アイツに打撃でダメージを与える方法が思いつか無い……