権能
「待て待てっ!」
まるで、鶏の喧嘩みたいに顔を近づけてガンなど垂れ合ってる2人を引き離す。
「とりあえず落ち着いてコーヒーでも飲め」
2人は依然ガン垂れ合いながら椅子に座る。
「そもそも、まず、なんで俺が逃げにゃいかんのだ?」
「ご主人様、神竜王ですよ。ご主人様でも手も足もでませんって」
すぐにアンが身を乗り出す。手も足も出ないは失礼だな。この前は少しは戦えたと思うがな。
「まずは、そもそも、その神竜王って何なんだ? そんなにべらぼうに強いのか?」
「ザップ、神竜王って古竜の王、『金色なる神竜王ゴルドラン』、伝承を紐解く限り最強の古竜よ。そうね、黒竜王オブシワンより、はるかに強いって言われてるわ」
ジブルも身を乗りだしてくる。黒竜王? あいつより強いのか? なんかデカいだけでアイツより与しやすそうに思えたが。
「そうですよ、オブシワンはゴルドランに何度も挑みましたけど、100回挑んで1回しか倒せた事は無かったって言ってましたよ」
そう言えば、すぐそのポンコツっぷりから忘れてしまいそうになるけど、アンも古竜の一角だったな。他の古竜と、かつて面識があってもおかしくない。けど、いろいろ初耳だ。
「え、アン、もしかして記憶が戻ったのか?」
「いえ、おぼろげながら覚えてます。ゴルドランは強かった」
「アン、それなら、ゴルドランの権能は何なの?」
ジブルがアンに問いかける。
「ジブル、権能って何だ?」
「古竜は、その権能、要するに神に与えられたと言われる能力による、絶対に近いスキルのようなものを持ってるの。アン、アイローンボーは投擲必中、アダマックスは不毀、ものを壊れなくする力。シルメイスは水を操り、オブシワンは魔法必中」
アダマックスは戦った事は無いが、臨海都市シートルのそばの海にいたシルメイス、魔道都市でのオブシワンとは戦って、その特技には苦しめられた記憶がある。
「え、と言う事は、皇帝の変身したドラゴンが神竜王だと言うなら、アイツはなんか特技的なものを隠しもってるって事か?」
「で、アンどうなの?」
いつの間にかジブルはアンを呼び捨てにしている。まぁ、どうでもいいが。
「ゴルドランの権能は……」
また、アンはためる。勿体ぶるのが、気に入ったのか。少しウザイ。
「ゴルドランの権能は強いっ!」
「「はあーっ?」」
僕とジブルはハモる。なんだそりゃ。
「なんて言いましょうか、めっちゃ固くて、めっちゃ力が強いのです」
うん、たしかに固くて強かった。
「あ、多分、それなら……もしかしたら分かったかもしれないわ。伝承とかでもゴルドランの権能が把握出来なかった訳が。という事は、ゴルドランの権能は物理強化。攻撃や守備を単純にブーストしてるだけなのかもしれないわね。けど、これは厄介だわ。何だかんだ言っても、ザップの能力はただ物理。それ以上に物理で強い者には単純に敵わないわ」
ジブルの言う事も解るが、物理で僕と黄金竜のどちらが上かは、もっと試してみないと正直わからない。奴が王国へ攻め込もうとしている以上、引く訳にはいかない。
「おい、待てよ、そりゃ実際に戦ってみないと分からないんじゃないのか? 何、俺が負ける前提で話してんだよ。アイツから俺らが逃げたら、王国はどうなるんだ?」
僕はジブル、そしてアンの目をじっと見つめた。