異界
ほんのりとしたピンクの空に白い雲、緑色の草が生えた大地が地平線まで続いている。まるで、絵本の中に飛び込んだみたいだ。この景色は見覚えがある。
「ザップ、アンさんが話したいそうよ」
ジブルの声に振り返ると2人の女性がいた。そのうちの背が高く反則的なプロポーション女性が話しかけて来たみたいだ。声はジブルだけど、誰だコレ? 微かに顔つきはジブルっぽいけどなんだかなぁ。
「え、ザップもしかして忘れちゃったの? 前も説明したわよね?」
「もしかして、お前ジブルか?」
「私以外、誰に見えるの?」
「どっからどう見てもジブル以外にしか見えないぞ」
「え、何言ってるの? いつもの私より、少し背が高くて、少しウェストがくびれてて、少し胸が大っきいだけじゃないの!」
「少し? 少しにしては盛りすぎだろ」
ジブルはギロリと僕を睨む。幼女じゃなくて美人なので少しドキリとしてしまう。
「まあ、いいわ。ここではみんな自分の望む姿になるの」
僕は自分の格好を確かめる。裸の上にミノタウロスの腰巻きを首と腰に巻いた猿人間スタイルだ。これが僕の望む姿? もしかして、自覚は無いが、僕には露出のけがあるのか? 少しショックだ……
「その顔は何にも解ってないみたいね。また説明するわ。さっきの魔法は精神感応系の最高魔法。『継ぎ目の無い世界』ここは継ぎ目のない世界、擬似的に作られた異世界のうちの1つよ。要は夢の中のようなもので時間の流れは存在しないわ。時の流れにうずもれし、私以外誰ももはや使えない太古の魔法よ。世界の名を冠する絶対魔法のうちの1つ。神々ですら抗う事も出来ないわ」
ジブルの話が終わらなさそうなので、奴が息継ぎした瞬間に口を挟む。
「ああ、そう言えば、確かそんなのあったな。要点だけ言ってくれよ」
そう言えば、昔、擬人化した勇者の剣と瘴気の金槌とこんな所で会話したような。
「もっと私の偉大さを讃えて欲しいけど、まあ、いいわ。そこのコーヒーには心を落ち着ける効果があって、誰かがコーヒーを飲み干すか、コーヒーが冷めたら元の世界に戻るわ。元々は、エルフの高位の魔法使いが……」
「ジブル、無駄ですよ。何を説明しても、またご主人様は忘れてしまいますよ」
もう1人の、頭に角が2本生えたやたらプロポーションが素晴らしい女性が口を開く。ジブルの姿と違って、胸がまだ常識の範囲内なのが好感度が高い。その声は間違いなくアンだ。ドラゴンの化身のはずなのに、人間の姿の方が好きなのか?
「お前、ドラゴンだろ? なんでそんな姿なのか?」
「確かに私はドラゴンで、ドラゴンである事には誇りを持ってますけど、やっぱりですね、人間の姿の方が色々なものを美味しく食べられるのですよ。ドラゴンってですね、火など吐くじゃないですか。味覚ってめっちゃ鈍いのですよ」
やっぱり食べ物か。
だけど、今のほんわかした会話でさっきまでの戦闘での高揚感が少し収まった。
「まぁ、まずは座って」
ジブルに促されて僕たちはテーブルにつき、コーヒーを口にする。