勇者の剣
『ザップ、斬れるかどうか試してみないとわかんねー』
僕が握りしめた剣から頭に直接言葉が流れ込む。この剣はかつて勇者アレフから奪ったのだが、僕の『勇者力』というものが上昇してから話し始めた。
「え、まじか、お前でも斬れないかもしれんのか?」
『俺のスキルは『自由切断』。勇者力に依存する能力なんだが、存在が強大過ぎるものには効かない事がある。例えば、神とか最高位の悪魔とかは多分斬れない』
「え、あいつそんなに凄いのか?」
『ああ、多分、最強クラスの存在だ』
いつも軽口ばっか叩いているコイツがシリアスだ。それが説得力を増している。けどやるのみだ。
『何をブツブツ言っているのだ。早くかかってこい』
黄金竜に急かされる。そんなに攻撃されるのが好きなのか? ドラゴンの考えは解らん。
「いくぜっ!」
僕は剣を握りしめ集中する。奴はデカいから、跳び上がらずに攻撃出来るのは、地上についてる足だけだ。奴の前の左足に向かって駆け寄る。
ギィーーーン!
金属が擦れるような嫌な音がする。駄目だ。軽く傷跡がついただけだ。
『ほう、中々良い剣だな。俺の鱗が傷つけられたのは、我らが封じられた大戦以来だ。良いぞ、良いぞザップ。もっとだ。もっと来い』
なんかやけに竜のテンションが上がっている。やっぱり変な奴だ。鱗に傷つけられるのがそんなに嬉しいのか?
『止めろ、止めやがれ。何してやがる』
竜は逞しい腕をブンブンするが、もう遅い。剣の切っ先で奴の鱗に落書きしてやった。
『下らない事しないでかかってこい』
「ああ、次は俺の最大の攻撃を叩き込んでやる」
僕は勇者の剣を収納にしまう。
『役に立てなくてすまん』
「気にするな。お前は頑張った元気出せ」
勇者の剣を慰める。コイツは意外に剣の癖に繊細だからな。
「ザップ、待って」
ジブルの大声が聞こえる。ん、まだいたのか? 見ないから逃げたのかと思ってたが。
「ご主人様、ストップです」
アンの声もする。アンも巨体が見えないから逃げたのかと思ってたし、そうして欲しかった。
『興がそがれるな。良いぞザップ。話してこい。なんなら加勢して……』
「心よ世界よ1つに成れ!『垣根の無い世界』!」
黄金竜が言い終わる前に僕の背に何かが触れジブルの声が響く。
辺りが真っ白な光に包まれ空の色がピンクに染まる。
なんか昔来た事がある奇妙な場所だ。ピンクの空に白い雲、芝のような短い草が生えた大地が地平線まで続いている。
目の前に、白いテーブルと椅子が3脚。テーブルにはピンクの空に映える緑のパラソルがついてる。テーブルの上には3つのソーサーつきのコーヒーカップが並んでいて、香ばしい薫りと湯気を立てている。