決着
「これが帝国皇帝の生き様っ!」
皇帝はランスを構え突撃してくる。早い、けど、まだまだだ。ランスの腹を軽くハンマーで叩くだけで、なんとか、その方向は逸らせる。明後日の方に向かって皇帝は駆け抜ける。全体重を乗っけた鋭いランスの一撃はとても重い。一点に力が集中してるだけあって、多分、『ドラゴンランス』という名に恥じない通り、ドラゴンの鱗でも貫通出来るのではないだろうか。
僕の後ろで、丸まってグテーっとしてる駄ドラゴンで試してみたい所ではある。それを背もたれにして、ジブルはこっちをガン見している。けど見てるのは皇帝の裸だろう。
皇帝はこちらを向くとまた突進してくる。また、それを逸らす。また、突進してくる。逸らす。それを数度繰り返すと、流石に皇帝も息が上がってきて、僕らは対峙する。
「「陛下ーっ!」」
いつの間にか遠巻きに裸の男たちが僕たちの戦いを見守っている。寒いのに拳を握って声を上げている。皇帝って意外に慕われてるみたいだな。なんか僕が悪者みたいだが、裸の男たちの応援は正直無い方がマシだ。
そろそろ決着をつけようと思う。決して手を抜いてた訳ではない。皇帝の突進は早くて力強く逸らすだけでやっとだった。正直僕はかわすとか、カウンターとかはあまり得意ではない。得意なのは攻撃。
「今度はこっちの番だ!」
まずは駆け寄り、横薙ぎの一撃。それを皇帝はなんとかかわす。流石だ。今回狙ってるのは武器。ランスで受けられたらハンマーをしまって力ずくでランスを奪ってやろうと思ってたのだが。けど、これも想定内、足を踏ん張り、力ずくで、攻撃が流れたハンマーを振り上げ、振り下ろす。クイックなその動きになんとか皇帝は反応して、ランスの根元で僕の攻撃を受ける。僕と皇帝は互いに武器で押し合う。
「終わりだ!」
僕は言うなりハンマーを収納にしまう。箍が外れたランスは弾みで浮き上がり、皇帝の胴体ががら空きになる。そこに渾身のヤクザキックを叩き込む。
「グオッ!」
皇帝は体をくの字に折り曲げ吹っ飛ぶ。その前にランスは引っ掴んで強奪している。皇帝は放物線を描くと、大地を叩きつけられ数回転がると動かなくなる。僕は収納にランスを入れようとするが入らない。何なんだこれは。止むなく出来るだけ遠くに投擲した。
「流石だな、ザップ・グッドフェロー。この俺が一撃かよ……」
皇帝はフラつきながらも立ちあがる。
「俺は負ける訳にはいかない。世界を一つにするために」
皇帝は大きく息を吸い込む。
「帝国兵たちよ、ただちに出来るだけ遠くに逃げろ。皇帝としての命令だ」
皇帝は大音声を上げる。まだ、元気あるのか。
「ザップ、第2ラウンドだ! 来い、ゴルドラン!」
金色の光が皇帝目がけて飛んでくる。そう言えば、さっきランスを投げた方角のような。
僕は咄嗟に後ずさる。皇帝のシルエットがブレたからだ。見覚えがある。アンが戻るときによくにている。
皇帝だったものから金色の光がほとばしり、僕は突き飛ばされる。けど、あらかじめ飛んでいたからダメージはない。受け身を取って立ち上がる。目の前には巨大な金色の物体。
巨大な金色のドラゴンが目の前に顕現していた。