敗走
「おい、アン、吼えろ」
僕はアンに叫ぶ。流石に裸で落馬した男たちが馬に踏まれる光景は見たくない。
「グゥオオオオオオオオーン!」
ドラゴンのアンが吼える。突撃してきた騎馬隊の足が止まる。馬が恐慌状態で動けなくなったからだ。今度はポータルへの指示を地上1メートル以上の動くものに変換する。何故、さっきから1メートル以上かと言うと、土を収納に入れたく無いからだ。後で出すのが面倒くさい。
僕は騎馬隊に駆け寄る。一瞬のうちに、裸で馬に乗る男たちが大量生産される。とってもシュールな光景だ。何人か落馬してる者もいるが、馬がすくんで居るから大した怪我人はいないだろう。馬に乗ってる者達も即座に降りると、騎士の誇りも無くまっしぐらに逃げ去る。
「けど、呆気ないわねぇ。大陸最強の帝国騎士団が戦いにすらならないわね」
僕の横に幼女導師がぴったりとくっついてくる。さっきマイがやられたのを見てるから自分も襲われると警戒してるのだろうか?
「お前、鬱陶しいからついてくんなよ」
「いやよ、こんな寒空の下で裸にはなりたくないわ」
「ちゃんと、お前は襲わないように指示している」
「うそでしょ、本当は私の体見たいくせにー、私はそんなに安くないわよー」
「本当、鬱陶しいな。興味ねーよ」
「もしかして、男の裸の方が好きなの? 徹底的に脱がしまくってるし」
「それは無い。出来ればこんな事したくない。敵の数が少なかったら、収納に入れるものの指定も出来るんだがな。よーく、このあとの事考えてみろよ」
「このあとの事?」
「むさい騎士達の武具はまだいいが、着ていた服や下着の分別が待ってるんだよ。魔道都市で全部引き取ってくれないか?」
「…………」
しばらくジブルは口をつぐむ。
「いいわよ、全部魔道都市で買い取るわ」
まじか。言ってみるもんだな。これで不安が一つ解消された。
そうこうしてるうちに、騎馬隊も逃げ去り、歩兵隊も一兵残らずまっぱになっていく。我ながらえげつないな。しかも、歩兵は女性もいるらしく、エンゲージする前に逃げる者さえいる。少し期待してただけに残念だ。もう、戦いにすらならない。帝国兵たちは、僕の後ろに控えるドラゴンのアンを見て、蜘蛛の子を散らすかのように敗走していく。
しばらく遊んでいると、人の波をかき分けて走ってくる者がいる。ほう、帝国にも強者がいるみたいだな。
「ザップ・グッドフェロー! 許さんぞ、尋常に勝負しろ!」
大音声で宣いながら近づいてくるのは、黄金の鎧を纏った美丈夫。ポータルが効いてないな。
「我こそはカルバーン帝国皇帝、バルバレス・マクドランであるっ!」
皇帝は金色に光る槍を手に群集をかき分けながら近づいて来る。