第六十九話 荷物持ち吠える
どうしよう? 僕の頭の中を勇者たちとの思い出が駆け巡る。苦いものばかりだ。
ここでは出来るだけ、いざこざを起こしたくはない。
あさっての方向を向いて知らないふりをしようとしたが、金髪の勇者アレフと一瞬目があってしまう。こいつはいつもそうだ。背中に目がついているかのように、敏感で勘が鋭い。
「ハーッハッハッハッ!」
アレフが僕を指差して声を上げて笑いながら、あとの三人を連れて近づいて来る。逃げようかと思ったが、なんで僕が逃げる必要があるのか?
僕は全く悪くない。悪いのはあいつらだ。ここが城の中でなかったらすぐに襲いかかってるところだ。
無力な僕を迷宮に持ち物を奪って置き去りにしようとしただけでなく、戦士ダニーに至っては僕を落とし穴に突き落とした。普通だったら死んでる。それからの苦労の数々が頭をよぎる。こいつらには絶対報いを受けさせてやる。
僕は手近な椅子に座る。動揺してるのを悟られないようにしないと、あいつらは弱ったものや弱いものいじめが大好物だ。
「よぉ、ザップじゃねーか、久しぶりだな、何してたんだ?」
アレフが僕の肩を叩く。おい、何してたんだはないだろ。
「やーねー、アレフ忘れたの、こいつダンジョンの中においてったじゃないの、キャハハハッ」
魔法使いのポポロが口に手をあてて笑う。なにが面白いんだ?
「おう、お前落とし穴に落ちて無事だったのかよ! よかったなー、本当によかった」
戦士ダニーが僕の肩を掴む。潰す気か、相変わらずのバカ力だ。
「魔法の袋、一つじゃ不便、また、連れてくか?」
聖女のマリアがボソボソ呟く。こいつは意味なく突然きれ始める。このパーティーの中で一番僕をいたぶったのはこいつだ。
「何よ、あんたたち、ザップの知り合いなの?」
マイが僕とアレフの間にスッと割り込む。
「どけ!」
アレフの声と共にマイが搔き消える。僕は咄嗟に立ち上がる。
ドゴン!
マイは壁にぶち当たり大きな音を立てる。
全く見えなかった。え、そんなにアレフは強いのか?
「マイ! 大丈夫か?」
「痛いわね、いきなり何するのよ!」
マイは起き上がり、瞬時に駆け戻ってくる。よかった。ダメージは無いみたいだ。
ドガッ!
いきなり僕の腹にアレフの蹴りが刺さる。大きな音がしたが、僕はその場から微塵も動かなかった。手を抜いたのか? 早いだけで全く威力がない。
「合格だ! お前をまた荷物持ちで雇ってやる」
アレフは髪をかきあげると僕に背を向ける。
「ザップ、これを持て」
ダニーが僕にバックを投げる。咄嗟に受け取ってしまう。
「ぼさっとしないで、早くいくわよ!」
ポポロが僕を杖でつつく。
「おら、行くっつってんだろ!」
マリアが僕の背中を蹴る。
僕はつい咄嗟に条件反射でついて行こうとしてしまう。
「ザップ! 何してるの!」
マイの叫びで我にかえる。
こいつらあんなことして、全く罪悪感ないばかりか、当然のようにまた僕をこき使おうとしている。
「なんで、俺がお前らについていかなきゃなんねーんだよ!」
気が付くと、僕は大声で叫んでいた。