破談
「ザップ、まずは話を聞け」
口を開こうとした僕を皇帝が手で制する。
「沢山の国があるから、1つの事に向かって力を注ぐ事が出来ない。例えば、強大な人類に対しての脅威が現れたとする。今の状態ならてんでバラバラ。何処の国も国同士牽制しあって、いたずらに時間が過ぎていく事だろう」
皇帝は腕を組んで目を瞑る。その眉間には深い縦皺が刻まれる。
「この前の黒竜王騒ぎだってそうだ。何処の国も睨みあってお前が居なかったら手遅れになる所だった。帝国は聖教国のお陰で動けなかった」
皇帝は目を開くと僕をじっと見据える。
「世界は1つに成るべきだ。力を貸してくれ。ザップ・グッドフェロー」
僕は腕を組み考える。皇帝の言ってる事は、一部明らか正しい側面はある。邪神、魔神、邪竜などの脅威にこの世界は幾度となくさらされて来たという。けど、それに対して全ての国で力を合わせたと言う話は聞いた事が無い。けど、それを変えるために、全ての国を力で従えていくというのは、なんか納得がいかない。
「皇帝、王国と戦争する気なのか?」
「ああ、国王という、世襲制の君主など、害悪にしかすぎない。選ばれた強い者、賢い者によって世界は動かすべきだ」
「沢山の人が犠牲になるんじゃないか?」
「出来るだけ無辜の民は傷つけないようにはするが、変革に犠牲はつきものだ」
急に辺りがしんと寒くなる。冷気の元を見る。マイだ。マイが皇帝を睨んでいる。
「犠牲ってなに?」
マイが抑揚の無い声を出す。やべっ、まじオコだ。それも致し方ないと思う。さらりと犠牲って言葉を紡ぐ皇帝に対して、僕は奴の全てに対して興味を失った。
「あんた、犠牲って言ったけど、その犠牲になった人には家族もいれば、大切な人もいる。犠牲になった人の回りには悲しみしか残んないし、犠牲になった人はそれで終わりなのよ。何か人類を守るとか言っときながら、人々の幸せも守れないの? 犠牲になるならお前が犠牲になれ!」
マイは立ち上がると収納から死神の鎌を出し構える。次はマイか……なんで僕の仲間達はそんなに皇帝を殺したがるんだろうか?
「まあ、まて、マイ」
僕は振るわれたマイの鎌を2本の指で摘まむ。皇帝は僕が止めると信じてたのか微動だにしない。
「ザップ、戦争は嫌よ。コイツを殺せば……」
マイは明らかにおかしい。なんか事情がありそうだが、聞いた事ないな。
僕は収納に鎌をしまい、マイを宥め座らせる。
「皇帝、俺はお前とは組まない。もし、王国と戦争する気なら叩き潰す。俺はただ気の合う仲間と楽しく生きて行きたい。お前の行く先にはそれが見えない。それに、世界を1つにする以外にも道はあるはずだ」
戦争なんかしても良いこと1つ無い。家で美味いもんでも食ってた方が百倍マシだ。
「そうか、どうしても従わないか?」
皇帝は目を細める。まるで、心の奥底を覗かれてるみたいだ。
「ああ、好きにさせてもらう」
僕は皇帝を真似て笑みを浮かべる。
「そうか、残念だな」
言葉と裏腹に、残念では無さそうな顔で皇帝は立ち上がった。
『最後に、なんで、今、軍事行動を』
ジブルが問いかける。
「王国はリザードマンと同盟しただろ」
そうか、寒いうちはリザードマンは戦えない。知らず知らずのうちに戦争のきっかけは僕が作ったのか……
皇帝は振り返る事無く、部屋を後にした。